現代,人類社会が直面する課題の多くは,多様な意思を持つ人間同士が相互作用することで予期せぬ結果を生む複雑系に創発する現象といえる.この種の現象解析には,エージェントベース・モデリング(ABM)を用いた社会シミュレーションが有用である.この方法は,現象をモデル化・可視化し,そのダイナミズムを読み解くことを可能にするが,「現実のどの部分を抽象化してモデルを構築すべきか」という基幹部分が定式化されておらず,信頼性を疑問視する声もある.そこで本研究は,質的なデータと量的なデータを繋ぐ新たな手法を開発し,マーケティング分野(新型コロナウイルス感染症の影響で医療・介護分野から変更)や教育分野における実際の問題で検証を行うことが目的である. 教育分野では,「まちづくり」をテーマにし,施策を評価する際に設定された条件のもとで実際に被験者に行為選択を行わせ,その結果を分析するゲーミング・シミュレーション(GS)を行った.GSにより被験者がABMを体感し,被験者が選択した行動シーケンスに類似したシミュレーション結果を提示することで,被験者の納得感を醸成することが期待できる.本研究では,ABMを体験するGSを構築し,被験者の行動シーケンスに類似したシミュレーション結果を提示するための,行動シーケンスの類似度の測定指標の分析を行った. また,マーケティング分野では,市民ランナーを調査対象に設定して2度のアンケート調査を実施し,時間軸上に複数回生じる行動変容が顧客生涯価値(LTV)にどのように影響するかを商品群ごとに明らかにした.そして,その結果に基づいた社会シミュレーションを試みた.
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