研究課題/領域番号 |
20H01576
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研究機関 | 秋田県立大学 |
研究代表者 |
小松田 儀貞 秋田県立大学, 総合科学教育研究センター, 准教授 (00234881)
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研究分担者 |
阿部 宏慈 山形県立米沢女子短期大学, その他部局等, 学長 (10167934)
野村 幸弘 岐阜大学, 教育学部, 教授 (20198633)
笹島 秀晃 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 准教授 (30614656)
木村 直弘 岩手大学, 人文社会科学部, 教授 (40221923)
戸舘 正史 愛媛大学, 社会共創学部, 寄附講座助教 (50869055)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 芸術化(アート化) / 共進化 / 脱芸術化(脱アート化) / 文化芸術 / アートプロジェクト / 作家(作家性) |
研究実績の概要 |
2年目にあたる本年度は、artification(芸術化・アート化)の議論の理解も進み、研究会等を通じて問題意識の共有も一定程度図ることができた。特に、同論の西欧中心主義的な論理構造についての認識を深めることで日本における芸術理解と文化状況の特殊性の問題を浮かび上がらせることができた。 本研究の課題のうち、社会と文化芸術の接触界面、文化芸術と市民協働に関連するものとして、主として2つの事例を検討し、以下のような知見を得た。 1)山形国際ドキュメンタリ-映画祭の事例:地域文化と映画人の親和性から生まれた映画祭が地域内外の関係性を通して成長していく過程は、ドキュメンタリーという特異なジャンルが大きな社会的関心を呼ぶ対象となる過程でもあった。映画祭自体がユニークな一つの芸術作品として社会化されるに至ったという構図がここに読み取れる。 2)1960年代後半以降のニューヨークのオルタナティブ・スペースの展開の事例:旧来の画廊が、社会運動、アクティヴィズムという形を取った都市の諸アクター間の相互作用を通して「オルタナティブ・スペース」として生成発展していく、そのダイナミックな社会的過程について理解を深めた。事例の検討を通して、社会問題と芸術の関係、芸術の政治化と芸術の制度化の問題について大きな示唆が得られた。 上記を含む研究会報告のほか、年度内に多くの分担者が関連の論説を発表している。 また、研究活動を通じて、分担者の間で、関連する主題をめぐる市民向けイベントを開催するなど地域間交流も生まれている。本研究が狭義の研究活動を超えた市民協働の実践に結びついていることも実績の一つと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度も感染症の状況は大きな改善は見られなかったため、分担者各人は文献研究を中心に個別に研究を進めると共に、オンラインで研究会や情報共有のためのミーティングを重ねて知見の共有に努めた。研究会の回数を増やし(打ち合わせを含め年に10回以上)、遠隔でもコミュニケーションの機会は多く持つことができた。なお少しずつ状況を見ながらメンバーの一部は移動を伴う視察や聞き取りなども行った。 2年目ということもあり、特に本研究の4つの主要課題のうち、①artification(芸術化・アート化)論の理論的検討については、N.Heinich、R.Shapiroらの文献の検討を中心に一定の進展を見ることができた。 また、②「社会化するアート/アート化する社会」の諸課題の検討、③文化芸術に関連する市民協働・交流活動の記述と分析に関しては、表現活動や市民協働の現場と関わりの深いメンバーが、映画祭、アートプロジェクト、文化的地域活動等に関する個別課題について知見をまとめている。これらを含みメンバー5名が関連の論説等を発表しており、一定の成果が現れてきた。 研究期間の前半を終える時点で一定の成果は出ており、以上の進捗状況から、本研究はおおむね順調に進展していると言える。ただ、当初予定していたゲストスピーカーを迎えた研究会やインフォーマント調査等はなお困難な状況であり、今後の状況の推移に依存するが、その実現を図るべく努力を続けたい。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の4つの主要課題のうち、①artification(芸術化・アート化)論の理論的検討については基本的な理解を共有し一定程度の進展を見たので、3年目は代表者を中心にこれを継続しながら、主として以下の②③④の課題について探求を進める。本年度は研究会活動等を通して特に②③に力点を置く予定である。 ②「社会化するアート/アート化する社会」の諸課題の検討:「芸術にとっての社会」「社会にとっての芸術」とは何か。社会と文化芸術の接触界面の問題について検討する。これまで本研究が注目した非職業的音楽家の音楽活動やアーティストコレクティヴと呼ばれる集団的芸術実践等の事例をさらに掘り下げたい(木村、戸館、小松田ら)。 ③文化芸術に関連する市民協働・交流活動の記述と分析:主として地域性/歴史性に注目しながら、文化芸術に関係する地域活動の事例を記述し、分析する。芸術家と市民の協働を枠組みとする集合的実践(アートマネジメントの現場、映画祭など)本研究参加者自身が関与する事例を引き続き対象とすると共に、相互交流の場を設け分担者の在住地以外の地域の状況についても知見を広げたい(野村、笹島、阿部ら)。 ④artification論の実践的総括:①②③を踏まえ、本研究の最終年度の総括に向けて準備を進める。N.Heinichらの議論の批判的検討(客観化/相対化)を通して、海外の事例分析における同論の意味だけでなく日本社会におけるその意義について考察する(「民藝」や戦後日本美術などの事例を素材に)。また今日の文化芸術の現場や市民にこうした問題意識とその意義をいかにフィードバックするかについて実践的な展望を示したい。 研究会の開催やインフォーマント調査などに関して、本年度も計画が新型コロナ感染症の状況に左右される可能性があるが、旅費経費の調整を含めICTの有効利用等を通して可能な限り臨機応変に対応したい。
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