研究課題/領域番号 |
20H01592
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
小澤 温 筑波大学, 人間系, 教授 (00211821)
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研究分担者 |
木下 大生 武蔵野大学, 人間科学部, 教授 (20559140)
森地 徹 筑波大学, 人間系, 助教 (50439022)
大村 美保 筑波大学, 人間系, 助教 (60641991)
相馬 大祐 福井県立大学, 看護福祉学部, 准教授 (70533199)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 地域移行 / 地域定着 / ケアマネジメント / プロセス / アウトカム |
研究実績の概要 |
2022年度は、次の研究課題のうち、主に研究2の継続と研究3に取り組んだ。(研究1)ケアマネジメントと地域移行、地域定着との関係の理論的な整理、(研究2)地域移行に関わる実践機関におけるケアマネジメント実践とアウトカムの関係の実証的分析:後ろ向きコホート研究、(研究3)地域定着に関わる実践機関におけるケアマネジメント実践とアウトカムの関係の実証的分析:実践の少なさのため文献研究中心に変更、(研究4)地域移行後の地域定着に関わる実践機関におけるケアマネジメント実践とアウトカムの関係の実証的分析:前向きコホート研究、(研究5)ケアマネジメント実践のプロセスとアウトカムを統合する評価法の開発 研究2では、地域移行支援に関わっている相談支援専門員を対象に地域移行支援における地域移行達成のために必要となる要素の解明を質問紙調査で行った。その結果、361件の回答(有効回答率31%)が得られ、地域移行における支援に関すること(6項目)、移行者に関すること(6項目)、家族に関すること(3項目)、周囲に関すること(1項目)について、地域移行の実績がある場合は実施の有無、効果の実感の有無、地域移行実績のない場合は取り組む必要があると思うか、効果があると思うかについて分析を行った。研究3では、地域移行後に生活の質や満足度がどのように変化しているのか、地域移行(脱施設化)とそのアウトカムについて文献調査をした。論文選択の基準は、脱施設化によってもたらされる影響や結果に言及している論文であること、生活の質や満足度について先行研究の調査や実証的研究が行われているものであること、地域移行の対象者が障害者であることとし、最終的に15本の論文を抽出した。施設で生活をしていた障害者が地域へと移行することで生活の質や本人の満足度がどのように変化するのか、地域移行がもたらす影響や結果について整理を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究2では、相談支援専門員による地域移行支援における地域移行の達成要因について、相談支援専門員等にインタビュー調査を行うことで、相談支援専門員による地域移行支援における地域移行の達成要因についての仮設構築を行い、構築した仮説に基づいた調査項目によるアンケート調査を行うことによって、その要因の検証を図ることできた。その上で研究3に取り組む予定であったが、地域定着実践が国内ではかなり少ないことから当初計画していた調査実施が困難であると判断した。そのため、海外の文献中心に文献調査を進めた。海外文献では地域移行後の生活の質の変化についてレビューが多くを占めていた。先行研究の文献レビューを通じて、施設から地域へ移行した人が、対人関係、住環境、自己決定等の観点から生活の質が改善されることに加えて、本人も地域へ移行して満足していることが明らかになった。その他、質問紙調査や面接調査などの横断研究を行った研究も把握でき、地域移行が生活の質に与える影響に関する研究、居住地域とパフォーマンス能力の関連性に関する研究、居住形態ごとの生活や幸福度に関する研究に分類できた。いずれの研究においても、地域社会に移行した人の多くは、生活の質が高い、または良いと感じていることが明らかとなっており、施設での生活よりも地域での生活の方がより肯定的な生活の価値に結びついていることが示唆されている。この知見をもとに、最終年度には、研究2で把握した事例に焦点をあてて、ケアマネジメント実践のプロセスとアウトカムを統合する評価法について検討を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度に向けて、研究2の知見を発展させて、最終年度において、検証した相談支援専門員による地域移行支援における地域移行の達成要因について、その実情を把握するために再度インタビュー調査を行うこととする。ただし、これまでの研究で脱施設化による負の影響も指摘されていることを考慮する必要がある。地域社会では医療ニーズが十分に満たされないことによる健康や福祉への悪影響、再分配効果(一部には良い影響がもたらされ、他には不利益が及ぶ状況)、家族に対する介護負担、犯罪行動の増加があることが示唆された。さらに、地域で受けられるサービスや支援者のパフォーマンス等にばらつきがあることも明らかになっている。特に、支援者については本人の日々の活動を支援することよりも管理することに重きを置いているとして、地域において複雑なニーズに対応し、より円滑で有効な支援を提供するためにはリーダーシップや研修によって支援者のパフォーマンスの向上が必要である。このように、地域移行によって生活の質や満足度に正の影響がもたらされている一方で、負の影響に対応し、円滑な地域移行を実現するべく、地域資源の構築や支援を実施する支援者に対する研修の検討、家族に対するケアのあり方の検討を行っていくことが、最終年に向けて重要であることが考えられる。このような知見をもとに、地域移行後の地域定着に関わる実践機関におけるケアマネジメント実践とアウトカムの関係の実証的分析として、研究2で対象にしたいくつかの事例に焦点を絞って前向きコホート研究により、ケアマネジメント実践とアウトカムの関係を解明する。最終的には、これまでの調査研究で得られた知見をもとに、ケアマネジメント実践のプロセスとアウトカムを統合する評価法の開発について整理し、ケアマネジメント実践の評価手続きの理論的な枠組みを提案する。
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