近年、地域包括ケアシステムの再編という政策課題のもと、高齢・障がい・児童の支援の連携が模索されている。実際の支援現場でも、高齢者と子育てのケアマネジメントやコーディネートの先進的な連携事例がみられる。本研究は、ケアをめぐる負の世代間連鎖に関する実証研究をつうじて、ジェンダー・世代・障がいの交差する暴力(虐待)の連鎖に関する構造的把握と、包摂的権利保障システムの構想を日韓比較から行うものである。新型コロナウィルス感染拡大に伴う影響で、研究代表者のサバティカルの予定が延期されていたが、急きょ2022年度夏まで在外研究(トロント大学グローバル社会研究センター)を行った。そこで、グローバル社会政策の視点も加えて、ジェンダーをめぐる権利擁護制度実態、連携における課題の検討、包摂的権利保障へ向けた今後の政策課題の明確化を行うための理論的整理や先行研究の整理を行った。暴力(虐待)は、不平等な権力関係が介入し、人間の存在にとって最も不正義なものである。本研究は、理論的・実証的検討から、ケアをめぐる制度的不正義にどう対峙するか、ケア民主主義(caring democracy)の視点から、ケアをめぐる全世代型の包摂的権利保障システム構想へとつなげていくものである。ジョアン・トロントの『ケア民主主義』の翻訳下案を完成させて出版社に提出した。また、日本語論文での成果報告を行ったとともに、2023年6月のコスタリカでの国際学会発表(パンデミック化のケア実態と政策分析)に向けてのフルペーパー提出を終えつつ、2023年度提出の英語論文の投稿準備を行った。
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