研究課題/領域番号 |
20H01608
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研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
川島 聡 岡山理科大学, 経営学部, 准教授 (60447620)
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研究分担者 |
松井 彰彦 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 教授 (30272165)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 就労継続支援A型事業所 / 制度の隙間 / 障害者権利条約 / 障害者基本法 / 障害者差別解消法 / 障害者虐待防止法 / 不当な差別的取扱い / 合理的配慮 |
研究実績の概要 |
日本の障害者就労制度の全体的構造の解明などを目的に据える本研究の成果として特に以下が挙げられる。 まず、研究代表者(法学)と研究分担者(経済学)の学際研究の成果として、「制度の隙間をなくす~特別制度から一般制度への昇華~」と題する論文が『経済分析』203号(2021年)に掲載される予定である。一般制度と特別制度との関係を分析し、障害者のための特別制度として導入された東京大学の在宅就労制度が一般制度に昇華されていく過程を検討し、この昇華を通じて社会全体の質も向上していくことを明らかにした。 また、公共職業訓練を受験した者が不合格処分を発達障害を理由とする違法なものだとして県を訴えた事件に関して、研究代表者が高松高等裁判所に提出した意見書(60,770字)の圧縮版が、「障害者に対する不当な差別的取扱いとは何か」として『賃金と社会保障』No.1759-60(2020年)78-100頁に掲載された。本意見書は、他事考慮による差別と考慮不尽による差別という2つの差別概念のベースとなる議論を展開し、比較対象者の検討とも関連して、「障害を理由として」の「を理由として」の解釈として主観説・客観説・統合説を整理し、「障害」の解釈として制限(差別)除外説、制限(差別)包含説、排他説を検討しつつ、合理的配慮との関係をも踏まえ、不当な差別的取扱いの概念を明らかにした。 加えて、研究代表者は、障害者権利条約と障害者基本法については『障害者福祉』(中央法規、2021年)3章4節(80-84頁)で、虐待防止法や障害者差別禁止法、意思決定支援ガイドラインについては『権利擁護を支える法制度/刑事司法と福祉』2章4節~6節(155-176頁)で、合理的配慮の概念については『発達障害・知的障害のための合理的配慮ハンドブック』3章1~3節(92-95、103-105、112-114頁)でそれぞれ論じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日本の障害者就労制度の全体的構造及び課題はどのようなものであり、どのような政策的処方箋が描けるか、を明らかにするという課題の下で、就労継続支援A型事業所協議会から協力を得ながら、A型事業所の利用者である精神障害・知的障害のある方々を対象に、アンケート調査を実施した。アンケートは、パイロット調査をした上で、さまざまな調整・配慮をしながら行って、2020年度は約200件の回答を得た。アンケート調査の実施はもちろん容易なものではないが、おおむね順調に進んでいるとおもわれる。また、研究会をオンラインで2回開催することができた。法学と経済学の学際研究の成果も得られ、共著論文を執筆した。障害者権利条約、障害者基本法、虐待防止法、障害者差別解消法などについて論じた拙稿を所収した書籍も刊行され、不当な差別的取扱いの概念の明確化を進めた意見書が雑誌に掲載された。なお、英独でのインタビュー調査はコロナウイルスのため実施できなかった。この調査は2021年度以降の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は引き続きA型事業所のアンケート調査を実施する予定である。できるかぎりアンケートの回答数を多く得られるようにして、一定数の回答が集まった段階で分析検討を開始し、研究論文の執筆につなげていく予定である。また、障害者差別の概念などの検討をさらに進めていく予定であり、経済学と法学との学際研究も進める。 英独でのインタビュー調査は、コロナウイルスのため実施できるか現時点では判断できない。
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備考 |
川島聡「(高松高等裁判所への意見書)障害者に対する不当な差別的取扱いとは何か(圧縮版)」『賃金と社会保障』No.1759-60(2020年8月)78-100頁
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