研究課題/領域番号 |
20H01620
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
伊藤 美紀子 兵庫県立大学, 環境人間学部, 教授 (50314852)
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研究分担者 |
坂上 元祥 兵庫県立大学, 環境人間学部, 特任教授(名誉教授) (20283913)
加藤 陽二 兵庫県立大学, 環境人間学部, 教授 (30305693)
田中 更沙 兵庫県立大学, 環境人間学部, 助教 (90733387)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 慢性腎臓病 / サルコペニア / マグネシウム / 高リン血症 |
研究実績の概要 |
慢性腎臓病は最終的に末期腎不全に至り、週に3回、1回4から5時間を要する血液透析が必要となる。わが国では超高齢社会に伴い透析患者も年々高齢化し、2017年末では透析患者全体約32万人の平均年齢は68.43歳である。近い将来、超高齢社会を迎えるにあたり、高齢透析患者への対策は急務である。高齢透析患者は様々な要因から、protein-energy wasting(PEW)と呼ばれる特徴的な低栄養状態に陥りやすい。さらに透析患者では一般集団よりサルコペニア・フレイルの合併率が高く、大きな課題となっている。PEWは腎機能低下による代謝異常を背景として、たんぱく質とエネルギーの摂取不足、尿毒症物質による食欲低下、全身の炎症などにより、体内のタンパク質やエネルギー蓄積が減少していることが特徴である。 PEWの原因には高リン血症による心血管疾患を予防するためのリン摂取制限も関与する。リンはたんぱく質中に多く含まれているため、リン摂取制限はたんぱく質の摂取不足につながる。マグネシウムはリン負荷により生じる血管平滑筋の石灰化を抑制することが近年報告されている。そのためマグネシウムの摂取は透析患者の血管石灰化とPEWを抑制できる可能性がある。 本研究では動物モデルとその評価系を確立し、食事中のリン/マグネシウム比が血管石灰化と筋肉量に与える影響を明らかにする。さらに透析患者の食事調査を行い、リン/マグネシウム比とPEWとの関連を解析する。これらの研究結果にもとづいて栄養療法を開発し、ヒトでの介入研究によりその実効性と有効性を検証する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
低栄養かつ筋肉の減少を示す動物モデルを確立した。Control群、低栄養群、懸垂群、懸垂+低栄養群に群分けした。通常と低栄養に分けて14日間飼育後、懸垂群と低栄養+懸垂群では尾部懸垂を14日間行った。解剖時の血液、肝臓および後肢の筋肉(腓腹筋・ヒラメ筋・長趾伸筋)を採取し、低栄養と筋委縮の評価を行った。その結果、栄養によりMyoD1の発現が減少、Atrogin-1、MuRF-1の発現が増加した。現在、低栄養・サルコペニア発症後の動物モデルの回復時に、運動とリン/マグネシウム比の異なる餌を与え、サルコペニア回復の効果を検討中である。 筋肉細胞モデルとして、ラット骨格筋由来細胞(L6細胞)を用いた。通常培地(DMEM+10%ウシ胎児血清)から低栄養培地(DMEM+2%ウマ血清)に交換し、異なる濃度のP、Mgを添加して培養することで、筋分化への影響を検討した。 P、Mg濃度による検討:P free培地を用いて、P濃度を0、1.0、2.0、3.0 mM、Mg濃度を0.8、1.6、2.4、4.8 mMに調製した培地で6日間培養して回収し、RNAを抽出した。P/Mg比による検討:P/Mg比の異なる培地で3、6日間培養して回収し、RNAを抽出した。RT-PCR・Real-Time PCRによる筋特異的遺伝子の解析を行った、筋分化は高Pにより抑制、高Mgにより促進されることを確認した。P/Mg比による検討おいては、高PでもP/Mg比が低ければ、筋分化の抑制が改善される傾向が示された。
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今後の研究の推進方策 |
腎不全モデルラットを使用し、サルコペニアを誘導する尾部懸垂と摂食量の調整によりPEWモデルを作成する。尾部懸垂に加えて餌の量を減らして約2〜3週間飼育することで、低栄養状態を作出する。摂食量、体重は毎日記録し、採血・採尿を週1回程度行う。運動による回復時におけるリン/マグネシウムの効果を明らかにするために、リン/マグネシウム比の異なる餌を与え、その効果を検討する。検討項目は、解剖時の血液、肝臓および後肢の筋肉(腓腹筋・ヒラメ筋・長趾伸筋、前脛骨筋)を採取し、低栄養と筋委縮、筋分化の評価を行う事により、評価する。以上より透析患者のサルコペニア改善の栄養療法の基礎データとする。 ラット骨格筋細胞L6細胞は、2% Horse serumの低栄養状態条件下で培養することで、筋管細胞(myoblast)に分化する筋肉のモデル系である。評価は、myogeninなどの筋管細胞のマーカーの遺伝子発現、タンパク質発現を確認することで行う。本モデルを用いて、リン/マグネシウム比を変えた培養液を用いて培養し、分化能への影響、内分泌機能を評価するためにインスリンシグナル、炎症マーカーへの影響を検討する。 食物摂取頻度調査法に基づいたリンとマグネシウム摂取量を簡単に評価する妥当性のあるチェックシートを開発する。医療機関に外来通院する透析患者を対象に、アンケートを実施する。特にたんぱく源の低リン高マグネシウム食品の摂取量を把握する。健康食品やサプリメントなどの摂取状況も聞き取る。運動習慣(日常的な活動動作)や生活習慣についても調査する。透析歴や既往歴、投薬情報などの医療情報はカルテより入手し解析する。以上より、患者への栄養療法への応用を目指す。
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