研究課題/領域番号 |
20H01651
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研究機関 | 熊本学園大学 |
研究代表者 |
井上 ゆかり 熊本学園大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (10548564)
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研究分担者 |
花田 昌宜 (花田昌宣) 熊本学園大学, 社会福祉学部, 教授 (30271456)
東 俊裕 熊本学園大学, 社会福祉学部, 教授 (30461619)
宮北 隆志 熊本学園大学, 社会福祉学部, 教授 (50112404)
中地 重晴 熊本学園大学, 社会福祉学部, 教授 (50586849)
藤本 延啓 熊本学園大学, 社会福祉学部, 講師 (60461620)
矢野 治世美 熊本学園大学, 社会福祉学部, 准教授 (60805977)
田尻 雅美 熊本学園大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (70421336)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 水俣病 / 公害教育 / アーカイブ / 水俣学 / 参加型調査 |
研究実績の概要 |
本研究は、すでに体系化されている公害教育のカリキュラムを援用し、被害当事者・市民・多様な専門分野の研究者らと協働し制作した水俣学アーカイブを公害教育へ効果的に活かす手法開発を通して公害教育の地域間・学校間の温度差を解消し、「公害水俣病」に関わる多様な知識や考え方を持つ人材の育成を図ることにある。その結果として、「身体的な病」としての水俣病ではなく、社会的な病である「公害水俣病」を相対的に理解する実践的な公害教育モデルを提示し、公害の原点である水俣の知的資源を国際的に発信する。 本年度は、水俣病を理解するうえで必須となる生業・文化、被害・福祉、環境・街創世、アーカイブの4つのグループごとに、先行研究レビュー、水俣学アーカイブの資料調査、授業レビューを作成し研究会を開催した。コロナ禍において、本学では出張の制限や研究会で人数制限が設けられたため、ハイブリッドで研究会を開催した。また、先行する水俣病事件史年表は項目毎に出典が記載されていないため事実誤認が散見され、これまで授業実践に使用できなかったことを鑑み、項目に出典を記載した年表を作成し、ホームページに掲載した。 これらの準備を終えた段階で、学部授業で活用し再度授業レビューの修正、新たな資料調査を行う予定であった。しかし、緊急事態宣言下で国内外問わず現地調査そのものができなくなったこと、本学の方針で100名を超える履修生ではオンラインで授業をすることが求められ、新たな資料の発掘や授業レビューを活用した講義の反応を直接確認することができなかった。これらを踏まえ研究計画を一部見直し国内外の現地調査は次年度に繰り越した。 この成果の一部はデジタルアーカイブ学会第5回大会において「環境教育実践に利する水俣学アーカイブの構築」として報告した。次年度以降も授業レビューの蓄積、資料調査を継続していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、アーカイブが教育実践に役立てる道筋を、教育関係者や研究者のみならず、被害当事者も巻き込んで築き上げる参加型調査にその特徴がある。参加型調査をすることで、水俣病に関わる教育実践内容のステレオタイプ化を打破する実践的研究は、本研究が初めてであり研究蓄積が極めて少ない中での課題設定である。これまで研究の蓄積が少ないことの理由に、資料に膨大な個人情報が含まれ、教材として活かすには丹念な資料調査と被害当事者らとの信頼関係なくしては成立しないことがある。2009年からホームページ上でアーカイブを順次公開し蓄積してきたことで、より資料寄贈の申出が増え、現地における関係者の協力や信頼を得ており、地の利を活かした調査研究を進めることができている。 本年度は、水俣学アーカイブとして公開している12の資料群から、次の4つを明らかにするための資料調査を行った。それは、①水俣病発生以前の不知火海沿岸の人々の生活を生業と文化形成の視点から理解する、②被害の全容が解明されていないなかで社会的な病としての水俣病の被害構造を経済学・障害学・社会福祉学の視点から捉える、③環境リスクマネジメントを市民とともに考える、④アーカイブそのもののあり方を検討するというもので、これまで活かされなかった一次資料の発見もあった。このことで、記憶や記録を集積するにとどまらず、研究を進め、公害被害を受けた地域課題を検討する人とアーカイブをマッチングすることの重要性を再認識した。 そのうえで、授業レビューを作成し研究会をハイブリットで開催した。また出典を記載した水俣病事件史年表を作成し、水俣学研究センターのホームページに掲載した。緊急事態宣言下で現地調査や対面授業が不可能になったことで、研究計画を見直し、国内外の現地調査を次年度に繰り越した。コロナ禍においては調査受け入れ側の方針などもあるため連絡調整を行っていく。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、これまで学校教育で、第1に公害被害の実態学習・被害者の声に学び・映像やドキュメント資料の学習をする、第2に公害の原因を探るとして原因企業の行動や被害住民に対する態度やなぜ公害を引き起こしてしまったかを学び、第3に将来に向けての教訓を考え自分たちの暮らしを問い直すという3つのステップで組まれていたステレオタイプの公害教育を刷新し、社会的な病である「公害水俣病」を相対的に理解する実践的な公害教育モデルを提示することで研究目的を達成する。この公害教育モデルが、従来の大学教育の内容および方法の革新を提供でき、他大学あるいは社会教育指導者養成、さらには他の公害教育でも活用可能となる。また、教育体系のなかでアーカイブを活用した座学やフィールドワークを本学大学院研究科および水俣学研究センター、そして被害当事者の連携の上で構築することは、研究成果を教育、地域に還元していくプログラムともなり、学びを現場にかえす水俣学の学問体系の構築にもつながる。 次年度は、これまでの資料調査や授業レビューなどをもとに、学部授業(座学とフィールドワーク)や大学院授業(フィールドワーク)で実践し、学生にアンケートを実施する。これを授業レビューに反映させ、4つの科研グループによる合同研究会を行い、意見交換をする。これを他学部の教員を対象として模擬授業を行う研究会を開催する。
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