研究課題/領域番号 |
20H01667
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研究機関 | 宮城教育大学 |
研究代表者 |
田端 健人 宮城教育大学, 大学院教育学研究科高度教職実践専攻, 教授 (50344742)
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研究分担者 |
原田 信之 名古屋市立大学, 大学院人間文化研究科, 教授 (20345771)
久保 順也 宮城教育大学, 大学院教育学研究科高度教職実践専攻, 准教授 (20451643)
本図 愛実 宮城教育大学, 大学院教育学研究科高度教職実践専攻, 教授 (70293850)
越中 康治 宮城教育大学, 大学院教育学研究科高度教職実践専攻, 准教授 (70452604)
梨本 雄太郎 宮城教育大学, 大学院教育学研究科高度教職実践専攻, 教授 (80292803)
丸山 千佳子 宮城教育大学, 大学院教育学研究科高度教職実践専攻, 特任教授 (90866857)
市瀬 智紀 宮城教育大学, 教員キャリア研究機構, 教授 (30282148)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 全国学力・学習状況調査 / 経年比較 / 標準学力調査 / 帰無仮説検定 / 全国偏差値 / 効果量 / IRT分析ソフト / 対話・探究学習 |
研究実績の概要 |
①学力・非認知能力を効果的に育成したモデル校につき、教科の学力を本当に向上させたかのエビデンスを得るため、2つの学力調査の結果を分析した。1つは当該モデル校とその自治体が10年以上実施してきた民間の標準学力調査、もう1つは全国学力・学習状況調査(以下「全国学調」)である。 ②標準学力調査は全国偏差値によって児童生徒の学力の変動を経年で便宜的に捉えることができる。種々の検証の結果、全国偏差値ではモデル校の特段の学力向上を捉えることができなかった。この検証過程で、モデル自治体の同一学年約110名の個人の偏差値を小1~中2まで8年間追跡したところ、最高学力層は偏差値にして平均で10、それ以外の層は平均で15以上変動していることが判明した。「9歳の壁」(小学4年ごろに学力は固定するという)通説を反証する一つのエビデンスを得た。 ③全国学調の結果を全国平均とモデル校平均でZ検定や等分散性・分散分析を試み、効果量を計算した。一定の有意差が確認できたが、全国のサンプル数の多さから帰無仮説検定の限界に直面した。モデル自治体への説明でも、検定の難解さに直面し、その克服が課題となった。そこで「平均ゾーン」という新概念を創作し、平均ゾーンとの差でモデル校の学力向上を可視化する手法を考案した。 ④全国学調の結果を一定の学術的裏付けをもって経年比較するために、文部科学省に匿名データの貸与を申込み、約10年分の無作為抽出データの貸与を受けた。データセットの作成法、IRT分析ソフトの利用法、結果の評価方法を年度後半に確立した。分析検証の結果、経年比較の前提となる仮説「全国平均には10年程度では変動がない」を実証した。 ⑤モデル校・自治体のリーダーシップやマネジメントにつき聞き取りを実施した。 ⑥児童生徒の非認知能力を効果的に育成すると仮定できる対話・探究学習、協働学習に関して、ドイツとハワイの事例を調査研究した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
①計画通り、モデル校・モデル自治体の学力を分析した。児童生徒の学力は、標準学力調査で、全国偏差値にして15程度変動するという、予期せぬ事実をつきとめた。110名とはいえ、8年間の追跡調査ができたことは貴重である。これにより、「どの学力層の児童生徒も学力を伸ばすことができる」という本研究チームの仮説が実証された。 ②モデル校の学力向上を、従来の統計的方法(帰無仮説検定)で分析したのは計画通りである。しかし、それに種々限界があるという批判に至ったこと、さらにその克服として「平均ゾーン」という着想に至ったのは計画以上の成果である。 ③計画通り、全国学調の匿名データを貸借した。それをIRT分析ソフトで解析し、「全国の同一学年約100万名の学力は10年程度では変動しない」という仮説を複数の観点から検証したことも計画通りである。 ④ドイツの学力調査と授業マネジメント、ならびに米国ハワイ州の対話学習(子どもの哲学p4c)に関し、計画通り国際調査を実施し、成果を発表した。ただ新型コロナウィルス感染症のため、計画通りの対面での実施ができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
①IRT分析ソフトによる全国学調の解析結果を利用し、モデル校の学力向上を実証する。また「平均ゾーン」によって、モデル校の学力向上を可視化し、成果をまとめて発表する。 ②モデル校の学力向上が学術的に実証できたならば、モデル校の学力向上に関わった関係者(学校長、教務主任、担任、教育長、教育委員会関係者)に聞き取り調査を行い、モデル校の学力向上の諸要因を特定する。 ③モデル校の児童の非認知能力も、学力向上に合わせ向上したかを検証する。そのために非認知能力を捉える手法を開発する。全国学調の児童生徒質問紙が活用できると見込んでいる。 ④学力/非認知能力の測定・可視化の手法(教育データサイエンス)を確立し、あるいはいっそう洗練させ、モデル校以外の学校・自治体に転用する。さらに「児童生徒の学力/非認知能力を精度高く把握することが、それらの効果的育成を促進する」という仮説の実証に取り組む。 ⑤対話・探究学習や協働学習に関し、国内および国際的に調査・実践・研究を継続する。これらの教育効果を測定・可視化する手法を開発する。 ⑥学校や教育委員会のリーダーシップについて、オーストラリアの教育学者ジョン・ハッティ等の実践的理論を検討する。
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