最終年度となる本年度は、これまで実施してきた調査研究で得られたデータを分析し、論文や図書にまとめる作業に従事した。ひとつは、インタビュー調査の回答データを分析し、日本人の大卒者の大学への寄付動機を類型化した論文を発表した。本成果は、英語論文「A Phenomenological Study of Japanese Donors’ Motivations in the Higher Education Context」として執筆し、海外学術雑誌『Philanthropy & Education』の査読審査を経て掲載が確定した。2つ目は、日本の大卒者に関するミクロデータを分析し、大学への寄付行動と関連のある要因として、給付型奨学金の受給経験が関連していることを実証的に示した論文を発表した。本論文では、給付型奨学金の受給が高等教育受益者本人の費用負担軽減をする側面のみならず、将来的に寄付を通じた高等教育の社会的支出へと繋がる投資的な側面を持つ可能性を指摘し、「奨学金と寄付の循環構造」を理論として提示した。3つ目は、日本人の大学への寄付経験や寄付意識を把握することを目的として実施した全国調査の回答データを分析し、属性別の日本人の大学への寄付経験の他、一般的な大学への寄付動機や今後寄付をするための条件に対する意識等を示した。本成果は、坂本治也編『日本の寄付を科学する:利他のアカデミア入門』(明石書店)に「なぜ人々は大学に寄付をするのか」として収録され、図書として刊行された。4つ目は、日本人の大学の公共性や財政負担意識に対する国民意識の回答データを分析した結果を論考「大学の社会的役割と評価:国民意識調査から見えてくること」をまとめて発表した。この他、本科研で実施ししたサーベイ実験をもとにした英語論文を執筆し、海外学術雑誌に投稿する準備を進めている。
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