研究課題/領域番号 |
20H01710
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
巖淵 守 早稲田大学, 人間科学学術院, 教授 (80335710)
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研究分担者 |
中邑 賢龍 東京大学, 先端科学技術研究センター, 教授 (70172400)
青木 高光 独立行政法人国立特別支援教育総合研究所, 研修事業部, 主任研究員 (40846458)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 重度・重複障害 / コミュニケーション / AAC / IoT / OAK / iOAK / モーションヒストリー |
研究実績の概要 |
初年度である今年度は,IoT(Internet of Things)技術を利用して視覚・聴覚・触覚刺激を提示しながら重度・重複障害児の反応の変化を自動的に観察記録できるタブレット(iPad)向けアプリのプロトタイプシステムを開発した。刺激の種類,提示時間・回数,方向,強度等を簡単なタップ操作で設定できるインタフェースを実装し,選択された刺激を設定された観察条件に合わせて一定間隔で自動的に提示することを可能とした。また,カメラが捉えるわずかな動きの変化について,その変化量に応じて着色することで対象児の反応を可視化しながら,観察結果を観察の条件ごとに分けて一覧表示できる機能を実現した。今後,実験結果に含まれる刺激による反応の違いを見分けることに役立つことが期待される。 次に開発したプロトタイプシステムを用いて,重度・重複障害児を対象とした実験を行った。コロナ禍の影響を受け,研究の実施者が直接学校や施設に入ることが困難となったため,ビデオ通話アプリを利用してベッドサイドと研究室をつなぎ,現地にいる保護者あるいは教師に対象児の映像を撮影してもらう形で実施した。実験の結果,開発したプロトタイプシステムを用いることで人の目では観察できない微細な動きの検出が可能なことが確認できた。また,運動障害があっても大きな動きがある子どもはその行動の意味づけが容易である一方,最重度の子どもの微細な反応の意味づけに関しては,刺激と反応の時系列分析から推定するしかなく,今後,最重度の子どもの事例を軸に様々な観点から分析することが,本研究遂行の要点となることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度,プロトタイプシステムの開発については,当初計画に沿っておおむね順調に進めることができた。しかし,コロナ禍の影響により研究メンバーが学校や施設に立ち入ることができず,重度・重複障害児を対象にした実験を進めることができなかった。実地での直接的な観察の実験の代わりに,ビデオ通話アプリを利用してベッドサイドと研究室をつなぎ,遠隔から撮影してもらう形で実験を進めたものの,対象となる子どもの数は大きく制限されてしまった。今後コロナ禍がしばらく続く状況においても当初目標を達成できるよう,一部計画の変更について現在検討を進めている。 今年度行われた検討結果からは,微細な反応しか得られない子どもについて,動きがあってもその反応の意味がよくわからない場合,あるいはその動きが小さすぎるために因果関係理解へと発展する活動につながっていない場合に,本システムが最も有効となり得ることが明らかとなった。この課題に注力した計画の改善を検討している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の結果から,開発するシステムの寄与が最も期待される最重度の子どもの反応の読み取りに,刺激と反応の時系列分析など,より詳細な議論が求められることが明らかとなった。そこで,反応について確率論的な分析を含めた検討を次年度以降進めていく。また彼らの微細な運動をどのように刺激探索行動や因果関係理解に結びつけていくかについての支援プロセスを明らかにすることを目指す。そのために最重度の子どもに事例を絞り込んで研究を進める予定である。 技術開発については,結果から導かれるコミュニケーションの支援プロセスに沿った機能の充実を図る。また,新たに刺激を対象児の反応のタイミングに合わせて自動的にフィードバックする機能を構築し,その有効性についても検証する。この際,不随意運動の除去やベースラインの適切な設定など,周囲からのノイズに左右されずに対象児からの動きを安定的にとらえ,さらには彼らからの反応を引き出すことにも役立つ機能や利用環境についての考察を進める。
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