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2020 年度 実績報告書

社会的排除の生成・維持メカニズムの解明と抑制要因の探求

研究課題

研究課題/領域番号 20H01757
研究機関追手門学院大学

研究代表者

浦 光博  追手門学院大学, 教授 (90231183)

研究分担者 増井 啓太  追手門学院大学, 心理学部, 講師 (00774332)
柳澤 邦昭  京都大学, こころの未来研究センター, 特定講師 (10722332)
中島 健一郎  広島大学, 人間社会科学研究科(教), 准教授 (20587480)
研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2024-03-31
キーワード社会的排除 / 自己制御 / 嗜癖 / 擬人化 / 非人間化 / 再確認傾向 / カテゴリー化 / ネット荒らし
研究実績の概要

第一に、対人関係からの排除と社会システムからの排除が嗜癖行動への自己制御の低下を媒介して嗜癖行動の不可欠感や嗜癖行動による社会的関係性への悪影響を招く可能性を検討した。700名の成人男女を対象としたWeb調査によって、想定された媒介過程が確認された。
第二に、人がAIを擬人化する傾向を持つ一方で、社会的な弱者を非人間化する傾向を持つ可能性について検討した。新たに開発した擬人化-非人間化尺度を用いた分析の結果、独自性(品性)-動物的非人間化の次元で、人はAIの独自性を高く、貧困層の人々や高齢者を低く評価している(動物的非人間化)ことが示された。
第三に、対人関係において過剰な安心感を求める傾向はかえって他者からの排除につながりがちであることが示されてきたことに対して、そのような過程の抑制条件を検討した。検討の結果、感情調整のための対人ネットワークの維持と、最も重要な他者からの受容が重要である可能性が示唆された。
第四に、世界各国のニュース記事を読んでいる際の脳活動パターンを解析した結果、前部帯状回、右島皮質、右扁桃体、楔前部、右側頭頭頂接合部などの領域で、各国の人々の特徴(e.g., 親日かどうか、アジア圏の人かどうか)に関する情報が表象されていることが確認された。これらの結果は、ニュース記事を読んでいる際に自動的に世界各地の人々をカテゴリー化していることを示唆するものである。
最後に、Dark Tetrad(マキャベリアニズム、サイコパシー、自己愛傾向、サディズム傾向)とネット荒らしとの関係性に及ぼす被排除経験の影響を検討した。その結果、Dark Tetradの高い人ほど他者からの排除を経験し、その結果、荒らし行為を行いやすくなることが示された。他者から排除された経験が、排除とは直接関係のない他者を攻撃するようになるという社会的排除の連鎖的影響が明らかとなった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

2020年度の研究では、まず、社会的排除がもたらす帰結について新たな示唆を得ることができた。社会的排除が嗜癖行動を招く過程における自己制御の媒介効果が示された。嗜癖は時に依存症を招くことがあり、依存症患者は社会的排除を受ける可能性が高い。つまり、社会的排除が嗜癖を招き、嗜癖がさらなる社会的排除を招くという循環的な影響過程の存在が示唆された。
次に、他者の好意に対する過度の再確認傾向はしばしば他者からの排除を招くが、この悪循環を断ち切るためには、重要な他者からの受容が特に重要な意味を持つことが示され、社会的排除の連鎖を防ぐ可能性の一端が示された。
神経科学的アプローチでは、人の外集団成員に対する自動的なカテゴリー化に関する有益な知見が得られた。このカテゴリー化は時として外集団成員に対するスティグマとなりうるものであり、またスティグマ化が社会的排除を招くことを考えれば、社会的排除の頑健さが示唆される。
ウィズコロナ、アフターコロナ社会における社会的排除のあり方を予見する上で、社会的排除とネット荒らしとの関連を理解することは重要な意味を持つ。また、サイバー空間で多様な役割を演じるAIの擬人化と人の非人間化との関連を探る試みも意義あるものと言える。2020年度はこれら新たな社会における排除メカニズムの理解に向けての取り組みにも着手した。
以上のように、2020年度においては当初計画していた社会的排除の生成と維持メカニズムの理解に向けて着実に成果を積み重ねつつ、ポストコロナ、ウィズコロナ社会における新たな社会的排除の生成メカニズムの理解に向けてもいくつかの有益な知見を得ることができた。よって、当初の計画以上に進展していると考える。

今後の研究の推進方策

アフターコロナ、ウィズコロナ社会における新しい生活様式は、社会的排除に対してもこれまでとは異なった影響を及ぼす可能性がある。2020年度の研究においてはそのことを見越した新たなテーマにも取り組み、一定の成果を得たと考えている。今後は、当初に予定していたテーマについての検討を着実に進めるとともに、新しい生活様式の中での社会的排除の生成、維持メカニズムについてもさらに検討を進めていく。

  • 研究成果

    (11件)

すべて 2021 2020

すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (5件)

  • [雑誌論文] How do Changes in One’s Self-esteem Affect the Self-esteem of Others?2021

    • 著者名/発表者名
      Shimizu, H., Takahashi, C., Koike, M., Fukui, K., & Nakashima, K.
    • 雑誌名

      Japanese Psychological Research,

      巻: in press ページ: -

    • DOI

      10.1111/jpr.12350

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Loss of Control over Addictive Behaviors Mediate the Effect of Social Exclusion in Addiction2021

    • 著者名/発表者名
      Yoshida, T. & Ura, M.
    • 雑誌名

      International Journal of Psychological Studies

      巻: 13 ページ: 27-33

    • DOI

      10.5539/ijps.v13n1p27

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Neural representations of death in the cortical midline structures promote temporal discounting2021

    • 著者名/発表者名
      Yanagisawa, K., Kashima, E. S., Shigemune, Y., Nakai, R., & Abe, N.
    • 雑誌名

      Cerebral Cortex Communications

      巻: 2 ページ: 1-10

    • DOI

      10.1093/texcom/tgab013

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] ダークなパーソナリティは社会の向社会性の維持・向上に寄与するのか ―下司・小塩論文へのコメント―2021

    • 著者名/発表者名
      浦 光博
    • 雑誌名

      心理学評論

      巻: 63 ページ: 433-437

    • 査読あり
  • [雑誌論文] 排斥研究から人のつながりを考える―玉井論文へのコメント―2021

    • 著者名/発表者名
      中島健一郎
    • 雑誌名

      心理学評論

      巻: 63 ページ: 183-191

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Excessive-reassurance seeking and mental health: Interpersonal networks for emotion regulation2020

    • 著者名/発表者名
      Abe, K., & Nakashima, K.
    • 雑誌名

      Current Psychology

      巻: 39 ページ: 1-11

    • DOI

      10.1007/s12144-020-00955-2

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] AIを擬人化し人を非人間化する心2020

    • 著者名/発表者名
      浦 光博
    • 学会等名
      日本心理学会第84回大会
  • [学会発表] 被排斥経験が Dark Tetrad とネット荒らしとに及ぼす影響2020

    • 著者名/発表者名
      増井啓太
    • 学会等名
      日本社会心理学会第61回大会
  • [学会発表] 世界の認知構造を符号化する神経表象-表象類似度解析による検証-2020

    • 著者名/発表者名
      柳澤邦昭・中井隆介・杉浦仁美・八田紘和・阿部修士
    • 学会等名
      日本社会心理学会第61回大会
  • [学会発表] 集団への所属意識とキャリア意識に対する自己肯定感の効果2020

    • 著者名/発表者名
      寺垣内雅子・中島健一郎
    • 学会等名
      日本社会心理学会第61回大会
  • [学会発表] 抑うつの認知的脆弱性の適応的側面について―ストレスフルイベントに着目して―2020

    • 著者名/発表者名
      野間紘久・重松 潤・中島健一郎
    • 学会等名
      日本認知・行動療法学会第46回大会

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公開日: 2021-12-27  

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