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2021 年度 実績報告書

社会的排除の生成・維持メカニズムの解明と抑制要因の探求

研究課題

研究課題/領域番号 20H01757
研究機関追手門学院大学

研究代表者

浦 光博  追手門学院大学, 教授 (90231183)

研究分担者 増井 啓太  追手門学院大学, 心理学部, 講師 (00774332)
柳澤 邦昭  神戸大学, 人文学研究科, 講師 (10722332)
中島 健一郎  広島大学, 人間社会科学研究科(教), 准教授 (20587480)
研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2024-03-31
キーワード社会的排除 / 社会的孤立・孤独 / 移行-保持戦略 / 社会的比較 / 脳活動パターン / Dark Triad
研究実績の概要

第1に、組織におけるアウトサイダーは他成員から排除されやすく、インサイダーは受容されやすいという直感的な理解とは逆に、アウトサイダーであるが故に受容されやすく、インサイダーであるが故に排除されやすい状況があるとの予測を検証した。それぞれの立場の者が逸脱的な行動をとった場合にはこの直感的な理解とは逆の結果が生じることが示された。
第2に、社会経済的地位の低さが孤独やそれに伴う健康状態の悪化に及ぼす影響の緩和要因としての移行-保持戦略の効果を検討した。社会経済的地位の低さは孤独やそれに伴う健康状態の悪化のリスクファクターである。その緩和要因として肯定的再評価(移行)と希望の保持の効果を検討するとともに、その親子間類似性を検討した。
第3に、高自尊であることの逆説的な効果について検証した。社会的比較の観点から、ある個人の自尊心が高まることはその個人の近くにいる他者の自身を低下させる可能性が考えられる。この可能性について中学生を対象とした質問紙実験で、自尊心を重要視している生徒の場合に、友人の自尊心の高まりによって本人の自尊心が低下することが示された。
第4に、周囲の他者からの否定的評価への恐れが過剰適応の予測因となることを機械学習アプローチにより示した。第5に、fMRI実験により、子供が仲間はずれにされている際、母親の脳では痛みに関連する活動パターンが生じている可能性が示された。特に、先行研究で示された共感的苦痛の脳活動パターンではなく、物理的痛みの経験の脳活動パターンに近いものであることが確認された。第5に、Dark Triad傾向が高く、かつ孤独感の高い人は社会階層の低い人への否定的態度が高いことが示された。社会的排斥が新たな排斥を引き起こす可能性について明らかとなった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

組織におけるアウトサイダーは他成員から排除されやすく、インサイダーは受容されやすいという直感的な理解とは逆に、アウトサイダーであるが故に受容されやすく、インサイダーであるが故に排除されやすい状況があるとの予測を支持する結果が得られている。このことは社会的排除-受容の様態の多様性を示すものであり、問題解決に向けてのより俯瞰的なアプローチが必要であることを示すものである。
社会的排除のリスクファクターである社会経済的地位の低さの影響の緩和要因として移行-保持戦略の有効性について確認した。個人の移行-保持戦略の形成にとって身近にいる役割モデルの重要性が指摘されており、この観点から移行-保持戦略の親子間連鎖の存在が確認されたことの意義は大きい。
高い自尊心を持つことは、一般に排除の悪影響を受けにくいという点において個人にとってポジティブな影響をもたらす。しかし、ある個人が高自尊であることが社会的比較の過程を経て他者の自尊心にダメージを与える可能性のあることが確認された。低自尊は排除の悪影響を受けやすくする要因であることが知られていることから、対人間の受容-排除の関係が自尊心をめぐる社会的比較の影響を受けてダイナミックに展開される可能性が示された。
さらに、子供が仲間はずれにされている際の母親の脳活動パターンが先行研究で示された共感的苦痛の脳活動パターンではなく、物理的痛みの経験の脳活動パターンに近いものであることが確認された。
加えて、社会的排除を受けやすい反社会的パーソナリティーの持ち主が、孤独感を抱くことで社会経済的地位の低い他者への排除傾向を高めることが示され、排除がさらなる排除を生じさせる可能性が示された。
以上の成果はこれまでに得られた成果からは必ずしも明確に予測できたものではなく、社会的排除の生成と維持メカニズムのより包括的な理解にとって大きな意義を持つものと言える。

今後の研究の推進方策

これまでの取り組みで必ずしも十分に検討されていないテーマとしてシステム正当化の影響がある。社会的排除の維持にとって他者からのスティグマと自己スティグマの相互影響過程とともに、排除が生まれる社会システムが正当なものであると認識することの影響が想定されている。今後は、これまでの取り組みをより発展的に展開していくことに加えて、システム正当化が社会的排除の生成と維持に及ぼす影響についても多面的に検討する予定である。

  • 研究成果

    (11件)

すべて 2022 2021

すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件) 図書 (2件)

  • [雑誌論文] Examination of the determinants affecting over-adaptation.2022

    • 著者名/発表者名
      Abe, N., & Nakashima, K. (in press).
    • 雑誌名

      Journal of Health Psychology Research

      巻: in press ページ: -

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Shift-and-Persist strategy: Tendencies and effect on Japanese parents and children’s mental health2022

    • 著者名/発表者名
      Lee, S., Shimizu, H., Nakashima, K.
    • 雑誌名

      Japanese Psychological Research

      巻: in press ページ: -

    • 査読あり
  • [雑誌論文] How do Changes in One’s Self-esteem Affect the Self-esteem of Others?2021

    • 著者名/発表者名
      Shimizu, H., Takahashi, C., Koike, M., Fukui, K., & Nakashima, K.
    • 雑誌名

      Japanese Psychological Research,

      巻: in press ページ: -

    • DOI

      10.1111/jpr.12350

    • 査読あり
  • [雑誌論文] インサイダーゆえの排除、アウトサイダーゆえの受容2021

    • 著者名/発表者名
      浦 光博
    • 雑誌名

      日本労働研究雑誌

      巻: 735 ページ: 48-58

    • オープンアクセス
  • [学会発表] Effects of Parental Attitudes on Child's Depression, Autonomy, and Carrier Consciousness: Using Parents-Child Correlational Data.2021

    • 著者名/発表者名
      Nishimura, Y., Shimizu, H., & Nakashima, K.
    • 学会等名
      The 33rd Annual Convention of Psychological Science.
    • 国際学会
  • [学会発表] Proposed Process from Attachment Anxiety to Physical Aggression: From the Perspective of the Escalation Theory of Domestic Violence.2021

    • 著者名/発表者名
      Xie, X., & Nakashima, K. A
    • 学会等名
      The 33rd Annual Convention of Psychological Science.
    • 国際学会
  • [学会発表] 二分法的思考と社会的排斥がネット荒らしに及ぼす影響2021

    • 著者名/発表者名
      増井啓太
    • 学会等名
      日本心理学会第85回大会
  • [学会発表] Dark Triadと孤独感が社会階層の低い人へのスティグマ的態度に及ぼす影響2021

    • 著者名/発表者名
      増井啓太
    • 学会等名
      日本社会心理学会第62回大会
  • [学会発表] 子供が仲間はずれにされている際のこころの痛み-母親を対象としたfMRI実験による検証.2021

    • 著者名/発表者名
      柳澤邦昭・中井隆介・浅野孝平・阿部修士
    • 学会等名
      日本社会心理学会第62回大会
  • [図書] 入門 司法・犯罪心理学(第2章 犯罪の整備津学的要因、第3章 犯罪の心理的要因)2022

    • 著者名/発表者名
      増井啓太(綿村英一郎・藤田正博・板山昴・赤峰亜紀(編))
    • 総ページ数
      318
    • 出版者
      有斐閣
    • ISBN
      978-4-641-17474-0
  • [図書] 感情制御ハンドブック:基礎から応用そして実践へ(第9章 衝動性と感情制御)2022

    • 著者名/発表者名
      増井啓太(有光 興記(監)飯田沙依亜・榊原良太・手塚洋介(編))
    • 総ページ数
      432
    • 出版者
      北大路書房
    • ISBN
      9784762831829

URL: 

公開日: 2022-12-28  

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