本年度は,鳥類カラスを対象に,優劣関係にもとづく他個体との対面時における身体反応と,塩化リチウム腹腔内投与を用いた内蔵刺激に伴う身体反応とを比較するための実験を行った。まず,優劣関係を形成したカラスのオス2個体を実験室で対面させ,対面中の心拍を記録,解析する実験を行った。その結果,優位個体と劣位個体に共通して自律神経の賦活が見出された。さらに,優位個体には対面中の運動量と相関する心拍数増加および交感神経活性がみられ,劣位個体には運動量と無関係に心拍数の低下および副交感神経の活性がみられた。次の実験では,塩化リチウムの腹腔内投与によって惹起される内蔵不快に伴う身体反応を解析した。その結果,内蔵刺激に伴って,心拍数の低下と副交感神経の活性が確認された。さらに,そのような身体反応は,メスよりオスの方が強く生じるという性差があることも見出された。これら2つの実験結果を照らし合わせると,優位個体と対面した劣位個体の身体内部では,内臓不快と同じ生理反応が生じており,オスではそのメカニズムを強く作用することで,厳格な優劣関係を形成および維持していることが示唆される。
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