研究課題/領域番号 |
20H01793
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
辻 雄 東京大学, 大学院数理科学研究科, 教授 (40252530)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 整p進Hodge理論 / prismatic cohomology / q-Higgs加群 / p進Simpson対応 |
研究実績の概要 |
2020年度研究費によるMorrowとの研究により, Bhatt-Morrow-Scholzeの整p進Hodge理論における二つの係数理論:相対BKF加群(Morrowとの共同研究)とAinfを基底とするprismatic crystal(Bhatt-Scholze)がFrobenius構造付きでは圏同値となることを示していた.一方2021年度研究費による研究により,基底がq-crystalline prism上で定義されている場合に,prismatic crystalとそのコホモロジーをq-Higgs加群を用いて記述する一般論を構築していた.その応用として相対BKF加群とAinfを基底とするprismatic crystalのコホモロジーの間の比較同型の証明を完成させた.また2021年度研究費によるパドヴァ(イタリア)での研究集会参加・講演の際に行った議論をきっかけとして,Ahmed Abbes,Michel Grosとp進Simpson対応についての共同研究を開始した.AbbesとGrosは,代数多様体の第一無限小変形への射の大域的持ち上げの存在のもとで,p進Simpson対応の関手性を示していたが,研究代表者によるHiggsクリスタルを用いた別のアプローチの視点から,射の持ち上げを用いない定式化のアイデアを得た.2022年度研究費による研究により,局所p進Simpson対応の逆像,順像についての関手性の射の持ち上げを用いない定式化を得た.p進Simpson 対応の固有滑らかな射による高次順像についての関手性の定式化においては,Higgs束の相対コホモロジーを,射の大域的持ち上げの障害に関連したtorsorを用いて適切に捻る必要がある.その構成を与えると同時に,相対コホモロジー上のHiggs場をAbbesとGrosの先行研究よりも簡明な扱いやす形で与えた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
整p進Hodge理論の二つの係数理論においてそのコホモロジーが同型になるかは基本的な問題であった.2021年度科研費の研究で構築した,基底がq-crystalline prism上にある場合のprismatic crystalとそのコホモロジーのq-Higgs加群による記述を用いて,この問題を解決できたことは,順調な研究の進展といえる.p進Simpson対応の関手性は基本的な研究課題である.Faltingsの定式化に基づくこの対応の構成は,考えている代数多様体の第一無限小変形に依存しているため,AbbesとGrosは第一無限小変形に射が大域的に持ち上がっているという強い仮定のもとに,固有滑らかな射による高次順像についての関手性を示していた.射の持ち上げの障害に関連したtorsorを用いることにより,持ち上げがない状況で関手性を定式化するアイデアを得,AbbesとGrosとの共同研究により,その有効性を示す結果を得た点も順調な進展といえる.
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今後の研究の推進方策 |
相対BKF加群とprismatic crystalのコホモロジーの比較については,コホモロジーの重要な付加構造であるFrobenius構造,積構造との関係を明らかにしつつ論文を完成させる.またprismatic crystalとそのコホモロジーの記述について,基底がq-crystalline prismの上にない場合や基底がない絶対的な場合の類似を探求する.p進Simpson対応の関手性について,局所的に得られたp進Simpson対応の関手性を張り合わせて大域的関手性を導く研究を行う.
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