研究実績の概要 |
今年度はラフパスで駆動される微分方程式(=Rough differential equation=RDE)の解の解析、特に近似誤差の研究を行った。具体的にはハースト指数Hが1/3と1/2の間にあるときの非整数ブラウン運動で駆動されるRDEの近似解(implementable Milsetin, Crank-Nicolson, First order Euler)の誤差過程の漸近極限過程を熊本大の永沼氏と共同で決定し、論文として投稿した。手法は、兼ねてより考えて来た近似解と真の解を一つのパラメータを用いて補間する近似解を用いた解析と多次元ヤング積分の評価・マリアバン解析による。 誤差過程を主要項と剰余項に分けたとき、主要項の収束を4次モーメント定理、マリアバン解析、多次元ヤング積分を用いて示し、剰余項の評価は補間近似過程の解析による方針は前年度と同様だが、得られた結果は当初想定していたより次の意味で良い結果になっている。まず、補間近似過程をパラメータに関して微分した展開式を用いて解析を行うのだが、証明を改善し、その微分回数を減らすことができ、これによりRDEの係数関数に対する 滑らかさを最小限に留めることができたことがその一つである。更に補間近似過程の解析を詳細に行い、Cass-Litterer-Lyonsの結果を用いて剰余項のsup-normのp乗可積分ノルムが指数オーダーで0に収束することが示せたのがもう一つの改良された結果である。 剰余項の収束のオーダーが分かったわけだが、それが真のオーダーか、すなわち漸近極限の評価の精密化はこれからの課題である。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度であるが、「現在までの進捗状況」で書いた(1), (2)以外に前年度に引き続きハースト指数が1/4より大きい場合の近似誤差過程の漸近極限過程の決定を行いたい。 さらに、無限次元空間上の2階偏微分作用素のスペクトルに関する研究を熱核の対数微分の評価を使い進める。具体的には, 以前の研究では, 回転対称なリーマン計量をもつ多様体の場合に結果を得ていたが, 回転対称性を外した空間で考えたい。熱核の対数微分の評価に関しては, X.M.Liらの新しい結果があるので, その研究を参考にしつつ進める予定である。また, 道の空間のディリクレ形式に対応するSPDEはHairerやGubinelliらが研究している特異非線形SPDEの範疇に入るため, その解析を行う。
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