研究実績の概要 |
今年度の実績は3つある. 一つは、2016年から続けてきた有界変動な経路依存項を含んだRDE(=ラフパスで駆動される微分方程式)の研究に新たな内容を加えまとめた論文を専門誌に投稿し出版されたこと。内容は、反射壁SDE, 最大値・最小値過程などに依存する1次元SDE(反射壁項も含み得る)などの多次元版SDEを含んだ経路依存RDEを定式化し、その解の存在、アプリオリ評価、サポート定理を確立したことなどである。
第2に、永沼氏と共同で取り組んできたRDEの近似誤差過程の漸近極限確率過程決定の研究をまとめた。この論文は、解と近似解を補間する解を用いた漸近極限過程の同定の解析とそのためのエルミート変分過程のマリアバン解析を用いたモーメント評価(かなり非自明性な多次元ヤング積分の評価が必要)の内容として異なる2つのパートからなるため、これらを別々に出版することを考えて準備中である。
第3にコンパクトリー群上のpinned path spaceの部分領域のディリクレ境界条件のOrnstein-Uhlenbeck(=OU)作用素を考え、その作用素のスペクトルの準古典極限を決定した。正確には、極限で、本質的スペクトルになると予想される孤立した可算集合が現れるが、その近傍を除外した集合上では、OU作用素のスペクトルは離散スペクトルのみになり、その極限が部分領域に含まれる測地線のエネルギー関数のヘッシアンで定まる近似調和振動子のスペクトルで決定されるという有限次元のアナロジーで予想される結果が得られた。ステイトメントだけを見るとわかりにくいが、この研究で局所的な近似の段階でラフパス理論を用いていることを注意しておく。この成果は、京都での国際研究集会で限定的な結果を講演の中で話し、さらに完全な結果は、3月の慶応大学での研究集会で発表を行った。論文は現在準備中であり、さらに進んだ結果も考察中である。
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