研究課題/領域番号 |
20H01826
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
竹内 一将 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (50622304)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 非平衡ゆらぎ / スケーリング則 / Kardar-Parisi-Zhang普遍クラス / 大偏差 / 液晶 / 界面 / 重点サンプリング法 |
研究実績の概要 |
Kardar-Parisi-Zhang (KPZ) 普遍クラスの大偏差計測を目指し、本年度は主として以下の3項目について研究を推進した。(i) 完全非対称単純排他過程 (TASEP) に対するクローン法の実装とKPZ大偏差の研究 (ii) クローン法の実験実装のための画像解析手法の検討 (iii) 液晶やKPZが関わる非平衡界面の多様な統計法則の探求。以下、これらの項目について概要を報告する。 (i) TASEPに対するクローン法の実装とKPZ大偏差の研究。KPZクラスの代表的な可解模型であるTASEPを用いて、我々が提案するクローン法を数値的に実装し、KPZ大偏差が計測できることを検証した。KPZ大偏差は、負のゆらぎと正のゆらぎで異なるスケーリング則を示すことが知られている。そのそれぞれの確認に要する時間スケールやクローン数など各種パラメータの条件検討を行った。特に、ステップ初期条件の負のゆらぎについては、厳密解の結果を再現できることを確認した。 (ii) クローン法の実験実装のための画像解析手法の検討。本手法を液晶実験系で実装するには、取得した顕微鏡画像をリアルタイムで解析し、クローン生成に用いるデータを取得することが必要である。リアルタイム画像解析のため、FPGAの利用を計画し、FPGA業者の技術者に依頼しアルゴリズムの検討を実施した。本検討には時間を要したが、FPGAでは実装困難であることが判明したため、CPUで画像解析を行う代替手法の検討を行った。 (iii) 液晶やKPZが関わる非平衡界面の多様な統計法則の探求。時空カオス系の数値計算により、摂動の時空間ゆらぎにKPZ普遍ゆらぎが出現することを見出した。また、液晶系の緩和過程で見られる界面時間発展を計測し、動的スケーリングの様々な統計法則の検証に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルスの影響で海外研究協力者との共同研究が困難であったが、本研究で提案するクローン法の数値的実装は概ね順調に進捗した。クローン法の実験実装については、業者側の見込みに変更が生じ、当初計画していたFPGAによる方法が実現困難であることが判明したため、比較的大きな変更の計画が必要となったが、代替手法の検討を進めることができた。以上については、やむを得ない事情によって当初計画に遅れをとった部分であった。一方で、液晶やKPZが関わる非平衡界面の多様な統計法則を探求した結果、時空カオス系において摂動の初期形状に依存したKPZ普遍ゆらぎの統計法則が出現することを示せたほか、液晶緩和過程の実験では Model A と呼ばれる動的スケーリング則の普遍クラスについて詳細な統計法則の検証を行うことに成功した。これら成果は論文発表に至った。以上を総合して、「おおむね順調に進展している」と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までの研究により、我々が提案するクローン法が正しくKPZ大偏差の特徴的性質を捉えられていることの示唆が得られた。そこで次年度は、KPZ特有のスケーリングが現れるTASEPの正の大偏差について解析を進め、厳密解の結果と比較する。また、KPZクラスでは、初期条件によっていくつかの異なる普遍ゆらぎが出現する初期条件依存性がある。大偏差に対しては、必ずしも初期条件依存性が網羅的に調べられていない状況であるため、クローン法を用いてTASEP大偏差の初期条件依存性を調べることにも着手する。 クローン法の実験実装については、リアルタイム画像解析をCPUで実行する手法の検討を継続する。また、クローン数計算や画像取得、電圧系制御など、実験系構築に向け必要な他要素との連携部分についても検討を進める。さらに、本研究で着目する液晶乱流がトポロジカル欠陥からなっていることに注目し、液晶トポロジカル欠陥の3次元動力学観察を行い観察することで、液晶乱流の非平衡界面について微視的な観点からの予見を得ることも目指す。
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