Kardar-Parisi-Zhang (KPZ)普遍クラスの大偏差計測を目指し、本年度は主として以下3項目について研究を推進した。 (i)完全非対称単純排他過程(TASEP)におけるKPZ大偏差計測の精度向上と予言検証。前年度に引き続き、KPZクラスの代表的な可解模型であるTASEPを用いて、我々の提案手法によりKPZ大偏差を計測した。前年度までに、3種の初期条件に対してKPZに特徴的な大偏差スケーリングを観測していたが、今年度は計測を本格的に実施し、各初期条件に対して、正負双方の大偏差のキュムラント母関数の関数形を決定した。ステップ初期条件については厳密解との整合性を確認し、提案手法の精度やパラメータ依存性について具体的な知見を得た。他の初期条件では、ステップ初期条件の結果との類似点・相違点を整理し、今後の理論研究に繋がる示唆を得た。典型ゆらぎと大偏差のクロスオーバー現象を捉えることに成功し、その特徴付けを行った。 (ii)液晶トポロジカル欠陥動力学の特徴付け。本課題の実験舞台である液晶乱流系は、トポロジカル欠陥が乱流で駆動されることが成長現象の起源であり、欠陥の相互作用や運動法則といった動力学の理解が大偏差を含む統計的性質の根底にある。そこで今年度は、欠陥の動力学計測、特に再結合現象の特徴付けに取り組んだ。特に交差型の再結合について、運動の特徴量を計測、理論と比較し、そこで明らかとなった理論の不一致の起源を調査する国際共同研究を実施した。 (iii)可積分スピン鎖のKPZ統計法則の数値的検証。当方的な可積分スピン鎖でKPZ相関関数が報告され注目を集めているが、KPZと相違する統計量も存在し、KPZとの整合性は明らかでない。そこで、古典スピン模型の数値計算によりKPZ厳密解の諸法則を定量的に検証し、普遍クラスが部分的に出現するという興味深い事実を明らかとした。
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