研究課題/領域番号 |
20H01829
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
谷口 耕治 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (30400427)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 有機・無機ハイブリッドペロブスカイト / キラリティ / 空間反転対称性の破れ / バルク光起電力効果 / 円偏光ガルバノ効果 / スピン軌道相互作用 |
研究実績の概要 |
本年度は、層状の有機・無機ハイブリッドペロブスカイト型鉛ヨウ化物の有機層部分に様々なキラル分子を導入することにより、空間反転対称性の破れた強いスピン・軌道相互作用を持つ半導体材料を新規に開発することに取り組んだ。これまでのところ、3種類のキラル分子に対して単結晶試料を育成することに成功しており、単結晶X線構造解析により結晶構造の決定まで完了している。育成に成功した単結晶試料はいずれも新規物質である。本研究の、系にキラリティを導入する物質設計では、原理的に系の対称性は“純粋なキラル”or“キラル&極性”のいずれかになる。今回得られた化合物に関しては、三種類のうちの一つの系の対称性が“純粋なキラル”であることが構造解析の結果分かった為、光起電力効果にどのようにキラリティが反映されるかを明らかにすることを目指し、円偏光ガルバノ効果(円偏光を照射すると電圧を印加しなくても光電流(ゼロバイアス光電流)が発生する現象)の観測を行った。この際、我々のグループの測定系はまだ構築途中であった為、研究協力者の研究室において共同研究の形で測定を行った。その結果、系の空間反転対称性の破れを反映して、円偏光ガルバノ効果によるゼロバイアス光電流の観測に成功した。具体的には、照射する円偏光の左右に依存してゼロバイアス光電流の符号が反転することを観測した。この際面白いことに、この円偏光依存のゼロバイアス電流は系に導入した分子のキラリティに応じて反転することを見出した。本研究は、円偏光ガルバノ効果のキラリティ依存性を、結晶構造のキラリティを制御した系で観測した初めての成功例となっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度には、空間反転対称性の破れを制御した有機・無機ハイブリッドペロブスカイトの物質開発と、円偏光の照射によりゼロバイアスで光電流が流れる円偏光ガルバノ効果の測定系の構築を目標としていた。前者の物質開発に関しては、おおむね研究計画通りに進めることが出来た。一方で、後者の円偏光ガルバノ効果の測定系の構築に関しては、年度初めの新型コロナウィルスの蔓延により、研究所への立ち入りが禁止されるなどした影響で、研究の開始時期が1~2か月遅れたこともあり、計画で予定していた測定系の完成までは至らなかった。但し、円偏光ガルバノ測定系の構築に必要となるエレクトロニクス機器や光学素子などに関しては、一通り揃えられており、光学系の組み立てまでは完了している。開始時期の遅れを考慮すると、おおむね予定通りの進捗状況になっている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度はまず、前年度より取り組んできた円偏光ガルバノ効果の測定系の構築を引き続き行い、完成させることを目指す。構築した測定系を用いて、前年度の物質開発において、キラリティの導入により空間反転対称性の破れを制御した有機・無機ハイブリッドペロブスカイトの円偏光ガルバノ効果の観測を順次行っていく。円偏光ガルバノ効果の測定系が完成するまでの期間に関しては、既にある装置で測定が可能なバルク光起電力効果(無偏光により光電流が流れる効果)の観測を行い、電気分極、キラリティとバルク光起電力効果の相関関係を調べる。また、研究協力者と共同研究を行うことで、既に得られている物質の円偏光ガルバノ効果測定も進めていく。特に円偏光ガルバノ効果で発生する光電流には、空間反転対称性の破れた状況下でのスピン・軌道相互作用によりスピン分裂した電子状態が反映されることが期待される。そこで、前年度に開発したキラリティ or 極性を持つ系の円偏光ガルバノ効果の観測を通して、有機・無機ハイブリッドペロブスカイトにキラル分子を介して導入した空間反転対称性の破れが、どのように電子状態に影響を及ぼしているかに関しての知見を得ることを目指す。また、当初の研究計画通り物質開発は引き続き進めていく。今年度は、強いスピン軌道相互作用を持つ系として、無機層部分に鉛だけでなくビスマスを含む系の開発にも取り組んでいく。
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