研究課題
光子を利用する量子計算・量子情報通信では量子干渉を利用するため、見分けのつかない高い不可識別性をもつ単一光子が多数、必要である。現在、半導体による不可識別光子発生は個々の量子ドットや不純物中心からの発光光子の波長・波束を一致させるために、結晶成長後に煩雑な微細加工・高度な分光法などが必要である。本研究では、より簡便で平易な方式で不可識別光子を発生させる目的で、単一電子分極内の光誘起電荷間のクーロン相互作用である局所電場効果を利用する新しい精密発光波長制御法を開発する。前年度、GaAs結晶中の中性アクセプター束縛励起子において35μeV程度の共鳴線シフトをフォトンエコー信号の励起強度依存性で測定した。しかし、共鳴線シフト量が非常に小さいため、他の光学効果の要因も検討する必要があった。そこで、今年度はフォトンエコー信号の減衰形状の励起強度依存性の測定を行った。局所電場効果がフォトンエコー過程に関与した場合、非常に特徴的な減衰形状の変化を示すことが我々の量子ドットの研究で明らかになっている。一方、GaAs中の中性アクセプター束縛励起子のフォトンエコー信号の減衰形状は単一指数関数的振る舞いであった。このため、量子ドットのような不均一幅が広い光学過程ではなく、四光波混合的な光学過程で解析を行う必要があることが判明した。また、イオン化ドナー束縛励起子においてもフォトンエコー信号のスペクトル形状、減衰形状の励起強度依存性の測定を行った。イオン化ドナー束縛励起子は不均一幅が広く共鳴線シフトは観測できなかったが、減衰形状においては局所電場効果特有の変化の観測に成功した。また、半導体分布反射型ミラーの作製を行い、微小共振器の中央の位置に量子ドットを埋め込んだ試料を作製した。さらに、発光線幅の増大によって不可識別性の向上を目指し、量子ドットと金ナノ粒子複合系におけるパーセル効果の観測を試みた。
3: やや遅れている
BeドープGaAs結晶中のBeに束縛している中性アクセプター励起子の共鳴線シフト量が非常に小さく、精密測定と理論解析を行う必要があったため。
本年度、作製した微小共振器を利用して、共鳴励起による単一光子発生を行い、単一局在電子分極における共鳴線シフトの観測を目指す。
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Physical Review Applied
巻: 16 ページ: 044034 044034/9
10.1103/physrevapplied.16.044034