研究課題/領域番号 |
20H01835
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中村 壮智 東京大学, 物性研究所, 助教 (50636503)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 超伝導接合 / 磁性半導体 / スピン軌道相互作用 / トポロジカル超伝導 / ジョセフソン効果 |
研究実績の概要 |
本研究では半導体や磁性体に超伝導体を接合した複合素子によってトポロジカル超伝導を創出し,それを観測することを目指している.
本年度はまず強磁性半導体であるInFeAsを細線状に加工して超伝導体を蒸着し,近接効果によって一次元のトポロジカル超伝導を創出することを試みた.InFeAsの細線への加工はエピタキシャル成長した二次元膜を電子線リソグラフィにドライエッチングあるいはウェットエッチングを組み合わせることで行ったが,平坦度の問題から加工による細線の精度が低く,綺麗な細線が形成できず,同時に超伝導体との界面も高抵抗になり近接効果超伝導が得られなかった.そのため二次元膜の表面クリーニング後に細線状の超伝導体を蒸着することで一次元状の近接効果領域を作り出すことを試みた.しかしながらこの方法でも界面抵抗が高く,期待した近接効果超伝導が得られなかった.超伝導体の形状や接合方向を変え,表面クリーニング条件を再度調整して接合抵抗の低下を試みたが,最も良い条件であっても以前に近接効果超伝導が得られたものに比べて抵抗率が10倍以上高いものしか得られなかった.これは基板のキャリア濃度が以前のものに比べて低いことが原因だと考えられる. そこで基板のキャリア濃度を変えるために絶縁膜を蒸着しゲート電圧によって濃度を上げることで界面抵抗の低下を試みた.超伝導体を接合した試料に加え,参照として加工を施さない基板上にも絶縁膜と電極を作り付けゲートによる濃度の調整を行った.しかしながら30nm程度の薄膜だと1V程度でリークが生じること,1μm程度の厚膜だと30V程度は加わるもののInFeAs膜までの距離が遠くゲートの効きが悪いことなどから,InFeAsの抵抗の低下は1%以下にとどまり,この範囲では界面抵抗にはほとんど変化が現れないことが判った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
InFeAsのエピ成長基板を供給していただいたため,超伝導接合の作成に取り組んだが,以前ほど低抵抗の資料が得られなかった.膜厚が異なることやヘテロ構造が異なること,MBE装置の修理前後で膜のコンディションが変化したことなどが原因で,ショットキー障壁などが原因の表面バリアが高く界面の抵抗が上昇していると考えられる.接合作成条件の最適化を行うために条件を変えていくつも試料を作成し,抵抗の値から界面状態を評価し,超伝導接合作成プロセスの改善を行ったが,近接効果が得られるほどの低抵抗試料は得られていない. また二次元電子系に磁場を印加することでトポロジカル超伝導を得る実験については,冷却のための液体ヘリウムデュワー発注先がコロナによって長期間工場の稼働を停止していたことなどから納期が大幅に遅れ,納品が年度末になってしまったために実験が行えなかった.
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今後の研究の推進方策 |
今後は高温超伝導体とInAsバルクを用いた超伝導接合を作成し,これによってトポロジカル超伝導の創出を目指す. 3月末で異動があり,新しい所属大学ではヘリウムの液化機がないため,以前のようにウェットの希釈冷凍機による極低温での実験は頻繁には行うことができない.そのため,より高温で超伝導となる高温超伝導体を用いた接合を用いて研究を行うことを考えている.エピタキシャル膜ではない高温超伝導体では加工が難しいが,グラフェンと同様の剥離法によって薄膜化できる高温超伝導体を用いることで加工を行うことを考えている. またウェットの希釈冷凍機は用いることはできないが,ドライの希釈冷凍機を移設すると同時に,共同利用などによって液体ヘリウムを使用することで,ウェットの希釈冷凍機での実験を行うことも考えている.GaSb/InAs複合量子井戸基板の品質は以前に比べて向上しているためメサ状に加工した基板において両端に超伝導体を接合し,磁場を印加することでトポロジカル超伝導を作り出すことを目指す.
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