研究課題/領域番号 |
20H01838
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中島 秀太 京都大学, 白眉センター, 特定准教授 (70625160)
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研究分担者 |
吉井 涼輔 山陽小野田市立山口東京理科大学, 共通教育センター, 講師 (30632517)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 冷却原子 / 光格子 / 孤立量子系 / 量子情報 / 熱化 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、量子多体系における情報の非局所化と情報伝搬の局所性について、非常に良い孤立量子系である冷却原子系の熱化・緩和過程を主たる研究対象として、実験と理論の双方からその学理を明らかにすることを目的としている。 当該年度において研究代表者(実験担当)は、前年度に引き続き、この研究の舞台となる光格子系中の冷却リチウム(Li)原子系の構築を進めた。当該年度はまず、前年度に実現された3次元磁気光学トラップ(3D-MOT)により捕獲・冷却されたLi原子集団を量子縮退領域まで冷却することを目指した。しかし現状の3D-MOTの原子数と温度では、量子縮退領域まで冷却することが難しいことが分かり、3D-MOTの原子数と温度の改善のため、よりパワーと安定度が期待できる市販の狭線幅半導体レーザーを導入し、レーザー冷却光源を増強した。また並行して、今後の非時間順序相関(OTOC)測定の舞台となる2次元系を構築するための光格子用レーザー(波長532 nm)のテストおよび2次元系観測のための高解像度光学系の設計を進めた。 また、研究分担者(理論担当)は、光格子系での量子情報の伝播について実験との比較が可能な形で解析を行なった。前年度に投稿した3本の論文のうち、光格子中のボソンのダイナミクスに関する論文およびAdS/CFT対応による非一様解の構成に関する論文が当該年度内に出版され、またスピン系におけるエンタングルメント伝播の研究についての論文も当該年度内に論文誌に受理された。また関連研究として、温度やノイズに対する量子エンタングルメントの耐性について研究した(arXiv:2202.10624)。さらに量子性の存在下で物理系を熱機関とみなした際の熱輸送についても研究した(arXiv:2112.12370)。 また3月に今後の研究方針について研究代表者と研究分担者が対面で議論を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度において研究代表者(実験担当)は、前年度までに実現された3D-MOTにより捕獲・冷却されたLi原子集団を量子縮退領域まで冷却すること目指し研究を遂行した。しかし研究実績の概要で述べたように、現状の3D-MOTの原子数と温度では、蒸発冷却法により量子縮退領域まで冷却することが難しいことが分かり、レーザー冷却光源の増強など3D-MOT系の改良に時間を割いた。またCOVID-19の感染拡大の影響による半導体不足からの納期遅延・欠品などもあり(狭線幅半導体レーザーを含む)、年度内に量子縮退領域までの冷却は達成できなかったが、一方で、その対応中に並行して、次年度以降に予定していた2次元系構築のための光格子用レーザーの準備や2次元系観測のための高解像度光学系の設計を進めることができた。 また、研究分担者(理論担当)は、スピン系におけるエンタングルメントの伝播速度に関する研究について解析を進め、論文の受理に至った。また、光格子中のボソンのダイナミクスに関する論文およびAdS/CFT対応による非一様解の構成に関する論文が当該年度内に出版された。またCOVID-19の感染拡大により、参加を検討していた研究会が中止されたことで、情報収集の機会が減少したが、共同研究者と進めた、量子エンタングルメントの温度やノイズに対する耐性の研究と、量子性の存在下で物理系を熱機関とみなした際の熱輸送の研究については、想定以上に進み、2本の論文投稿まで行なった(arXiv:2202.10624, 2112.12370)。これらの研究はどちらも時間反転ダイナミクスと組み合わせて拡張することにより、量子系における情報や熱の振る舞いに関するより詳細な知見が得られることが期待される。これら実験と理論の進捗を合わせて考えると、全体の進捗としては、おおむね順調に進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、研究代表者(実験担当)は、引き続き計画通り、相互作用可変な極低温リチウム(Li)原子系および光格子系の構築を進めていく。3D-MOT の増強が済み次第、速やかに光トラップへ移行し、光トラップ中での蒸発冷却によりLi原子の量子縮退状態の実現を目指す。光格子用光源についてもテストを進めているので、量子縮退状態が実現し次第、光格子系への導入を目指す。 研究分担者(理論担当)は、今年度受理されたスピン系でのエンタングルメントの伝播に関する研究を光格子系に拡張し、実験との比較が可能なセットアップでの研究を行う。特に、本プロジェクトの特色である、時間反転プロセスの実験的な実現を用いて測定可能となる非時間順序相関(OTOC)やロシュミットエコー、あるいは時間反転ダイナミクスによる非平衡揺らぎの定理に関する理論提案を行っていく。また年度内に投稿した2本の論文と現在執筆中の論文2本について、早期の受理を目指す。最終的にはこれらの結果を元に実際の実験系で実現する方法の提案とその実装を目指す。 また今後、実験系が完成に近づくにしたがい、より具体的な実験提案について研究代表者と研究分担者による対面での議論の機会も増やす。
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