研究課題
本年度は、大きく2つの研究を行った。ひとつ目の研究では、2次の非線形光学素子であるPPLN導波路を用いた周波数変換において、変換光のみを閉じ込めた単共鳴構造の共振器を配置することで、周波数的に密に配置された光から目的の光のみを抽出し変換する「光周波数ピンセット」を提案・実証した。これは、大規模周波数モードを利用する光量子情報処理や量子インターネットにおいて精密量子操作を行う基盤技術となる。通常の非線形光学媒質では位相整合条件を精密に設計することが難しく、周波数的に密に並んだ入力光から特定のスペクトル成分のみ周波数変換するといったことは現実的ではない。そこで本研究では、共振器によって変換光モードを制限した。ポイントは共振器閉じ込めが変換光の周波数近辺のみに対して行われている点にあり、これにより、所望の周波数モードの光のみを精密につまみあげ、移動(変換)させる「光周波数ピンセット」が可能となる。実験では、離調をつけた2本のシグナル光の周波数変換を行った。離調周波数が共振器の共振間隔と一致するときは2本同時に周波数変換が行われたが、離調周波数が共振間隔とずれているときには1本のみ周波数変換され他方を素通りした。これにより、「ピンセット効果」を実証することに成功した。ふたつ目の研究として、前年度までに開発した単共鳴導波路共振器を用いた周波数多重偏光エンタングル光子対源を改良し、既存の高密度波長分割多重規格と整合するスペクトル間隔(12.5GHz)をもつ光子対源を設計し、これを用いた実験を行った。16チャンネルの周波数分割をシグナル光子とアイドラ光子に対して行い、いずれのチャンネルにおいても高い忠実度で偏光エンタングルメントが生成されていることを確認した。本成果は、大規模に周波数多重化された光量子通信の基盤技術となる。
1: 当初の計画以上に進展している
当初予定していた計画に基づいた実験を順調に実施し、成果を挙げることができた。単共鳴型の導波路共振器を用いた「光周波数ピンセット」はこれまでにない全く新しいデバイスであり、応用先も非常に広く、今後の広がりが大いに期待できるものである。DWDMの規格にあわせて設計した周波数多重光源では、従来のエンタングルメント光源と遜色のない忠実度を示すことに成功した。共振器の効果により、励起光パワーは従来よりも大幅に少なく済む上にチャンネルクロストークも非常に小さいと考えられるため、本デバイスに基づいた大規模量子通信実現の道がひらけたと考えている。どちらの研究も、もともとの計画外であった発展的実験につながっており、実際その準備を進めることができている状況である。以上のことから、当初の計画以上に進展していると考えている。
本年度に実現した光周波数ピンセットを単一光子に適用し、量子デバイスとしての性能を実証する。また、量子周波数コムの干渉実験など、光子生成にとどまらない発展的な光量子情報処理を行う。
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Physical Review Applied
巻: 17 ページ: 034012
10.1103/PhysRevApplied.17.034012
Appl. Phys. Express
巻: 14 ページ: 102001
10.35848/1882-0786/ac211e