研究課題/領域番号 |
20H01843
|
研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
井上 慎 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (10401150)
|
研究分担者 |
竹内 宏光 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 講師 (10587760)
藤本 和也 名古屋大学, 工学研究科, 特任助教 (40838059)
加藤 宏平 大阪市立大学, 南部陽一郎物理学研究所, 特任助教 (60793586)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 量子縮退気体 |
研究実績の概要 |
本年度,コロナ禍に実験上のアクシデント(PCの暴走によるコイルの異常加熱)が重なり,発表に直接結びつく実験結果は得られなかった.実験設備の復旧には時間がかかるため,設計に並行して我々の実験計画に不備がないか主に理論的な側面から研究を進めた.実験計画では「位相コントラストイメージング」と呼ばれる非破壊イメージング手法を用いて,ドメインサイズのヒストグラムを作る計画である.しかし非破壊イメージングと言ってもわずかな加熱はあり,その加熱はドメインサイズの構造に依存する.よってこの加熱は実験結果の解析に系統的な誤差を与える可能性がある.幸い,井上が招待公演を行なったDAMOP2020(アメリカ物理学会)において,関連する理論研究の発表があったので,同じ方法を我々の系に当てはめることを試みた.具体的には,2成分混合Bose系に非共鳴のプローブ光を照射した際にプローブ光とBECの間に生じる量子エンタングルメントを追跡することによって,BECのGross-Pitaevskii方程式を確率変数を含むものに拡張することができる.実験班は藤本と共同で数値計算コードの作成を行い,ドメイン壁が複数ある状態を初期状態として,その時間発展を数値的に求め,観測の影響を数値的に調べた.その結果,イメージのS/Nを保ちつつ,加熱の効果を最小とするプローブ光強度を明らかにすることができた. 竹内は, 強磁性および反強磁性相互作用する原子についてスピノールBECのポーラー相におけるソリトンの内部構造の相図を理論的に明らかにし,学術論文として発表した.また,相分離した2成分BECにおけるケルビン・ヘルムホルツ不安定性のパターン形成をウェーバー数によって特徴づけることでその相図を理論的に調べ,学会発表を行った.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
実験に関しては,カリウム・ルビジウム混合ボースアインシュタイン凝縮体中の原子数を1桁程度改善することを目的として種々の設計を完了した.具体的には2次元磁気光学トラップの設計,カリウム41の存在比を95%まで高めたアンプルの使用である.さらに2次元均一BECに対する光学アクセスを改善するため,磁気トラップをIoffe-Pritchard TrapからQUICトラップに変更することを決断し,加藤を中心に設計を行なった.年度末に3次元CADで設計した部品が納品されたので,2021年度には作成に着手できる予定である. 非破壊イメージングによる加熱の評価に関しては,上述の2成分Gross-Pitaevskii(GP)方程式を解く数値計算コードを作成した.観測の影響を簡単な系で調べるために,計算コストが小さい1次元系でGP方程式を数値的に解き,観測強度に依存したダイナミクスを確認した.
|
今後の研究の推進方策 |
QUICトラップの作成,2次元磁気光学トラップの作成,及びカリウム41アンプルの真空槽への導入を行う.改めて超高真空を達成した後に各種パラメーターを調整し,カリウム・ルビジウム混合ボースアインシュタイン凝縮体中の原子数の1桁の改善を目指す.さらにルビジウムに対するグレイ・モラセス法を導入し,蒸発冷却前の位相空間密度の更なる改善を目指す.観測の影響については,今後の実験を想定した2次元系の数値計算を行い,観測がどの程度大きな影響を及ぼすかを系統的に調べる.この結果をもとに,動的スケーリング則の実験観測に向けたパラメータ設定の指針を決定する.
|