研究課題/領域番号 |
20H01844
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
石井 悠衣 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50708013)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 強誘電体 / 構造相転移 / フォノン |
研究実績の概要 |
現在、強誘電性の抑制とそれによって生じる新奇なフォノン物性に興味が持たれている。充填トリジマイト型酸化物Ba1-xSrxAl2O4 (空間群P6322)は、Ba-rich側とSr-rich側にそれぞれ構造相境界を有す。母物質であるBaAl2O4はTC = 450Kの間接型強誘電体である。Ba-rich側で見られる強誘電相(P63)は少量のSr置換により抑制され、x=0.07で強誘電性が消失する。一方、x=0.6以上ではP21相が現れる。本研究ではこれまでに、x=0~1の低温比熱の温度依存性を慎重に測定したところ、本系が結晶性固体であることはX線回折などから明らかだが、強誘電相の外側のx>0.15の組成で、デバイのT3則から外れる非晶質的な過剰比熱が観測され、アモルファスSiO2などの典型的な非晶質固体と同様の温度依存性を示すことを明らかにしてきた。このように、本物質では、強誘電的長距離秩序が阻害された結果、結晶の周期性は維持しながら何らかの強いdisorderがx>0.15の組成で発現しており、フォノン物性に大きな影響を及ぼしていると考えられる。 本課題では、このように特異な格子ダイナミクスが期待できるBa1-xSrxAl2O4を研究の柱として、(a) 強誘電性の抑制が、Ba1-xSrxAl2O4の熱伝導率・弾性定数といったマクロ物性に及ぼす影響を解明し、また(b) X線非弾性散乱、中性子非弾性散乱、およびPDF解析を用いてその格子ダイナミクスを解明する。さらに、(c) その他の強誘電体にも対象を広げ、その強誘電性を抑制した状態でのフォノン物性を広く調べていくことで、「構造の」量子臨界性の本質を見出すことを目的としている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はBa1-xSrxAl2O4の熱物性に注目して研究を進め、低温比熱・熱伝導率の温度依存性が構造相境界組成(構造量子臨界点)で臨界的挙動を示すことを明らかにした。また、粉末試料を用いた中性子非弾性散乱の結果から、構造相境界組成に向かって音響モードの低エネルギー励起が増加するとともに、ボゾンピークを思わせる非晶質的な励起スペクトルに変化していることを見出した。本系で観測された非晶質的な比熱や熱伝導率は、この非晶質的な励起スペクトルによって説明される。これらに関し、現在論文投稿中である。研究目的(a),(b)を順調に達成しつつあることから、研究課題がおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の主な研究方針としては、様々な強誘電体を研究対象として、構造量子臨界点付近でのフォノン物性を明らかにしていく。また、強誘電体にとどまらず、構造量子臨界点を示す超伝導体にも研究の対象範囲を広げていく。
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