研究実績の概要 |
本課題では、特異な格子ダイナミクスが期待できるBa1-xSrxAl2O4を研究の柱として、(a) 強誘電性の抑制が、Ba1-xSrxAl2O4の熱伝導率・弾性定数といったマクロ物性に及ぼす影響を解明し、また(b) X線非弾性散乱、中性子非弾性散乱、およびPDF解析を用いてその格子ダイナミクスを解明することを目的としている。さらに、(c) その他の強誘電体にも対象を広げ、構造量子臨界性の本質を見出すことを目的としている。これまでの研究成果の概要として、Ba1-xSrxAl2O4においては少量のSr置換によって強誘電的長距離秩序が抑制され、x = 0.07で強誘電相が消失するが、x ≧ 0.07では低温比熱が増大し、熱伝導率は非晶質固体に特徴的なプラトーを示すことを明らかにしている。これらの熱物性の起源を明らかにするため、Ba1-xSrxAl2O4粉末(x = 0, 0.03, 0.07, 0.2, 0.3)に対して中性子非弾性散乱を行ったところ、臨界組成付近のx=0.07では、~4 meV以下の低エネルギー励起が増加していることが明らかになった。|Q| = 2~4 Å-1の範囲で積算したプロファイルからは、フォノン分散由来のピーク構造がxの増加に伴って潰れ、x≧0.07ではボゾンピークに類似したブロードな励起スペクトルに変化していることがわかった。ボゾンピークは、非晶質固体で一般的に見られる振動状態のスペクトルである。すなわち強誘電相の外側では、ソフトモードの凝縮の抑制によってガラスに類似した短距離相関が生じ、過剰比熱などの熱物性を引き起こしている可能性が高い。こうした知見を踏まえ、現在、音響モードのソフト化が関与する構造量子臨界物質(Sr1-xCax)3Rh4Sn13などにも研究対象を広げ、構造量子臨界点近傍での普遍的な物性の解明に取り組んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は音響モードのソフト化が関与する構造量子臨界物質(Sr1-xCax)3Rh4Sn13にも注目し、構造量子臨界点近傍で見られる過剰比熱と強結合超伝導の関連について明らかにした。本物質では、構造量子臨界点近傍の組成でTcが上昇するとともに、超伝導ギャップの増大が見られることが報告されていた。そこで本研究では、(Sr1-xCax)3Rh4Sn13の常伝導状態での電気抵抗率と格子比熱を詳しく調べ、構造量子臨界点付近では低エネルギーフォノンが増加しており、その組成依存性が超伝導ギャップの組成依存性と完全に一致していることを明らかにした。すなわち、低エネルギー領域で増加したフォノン状態密度が電子-格子相互作用定数を増加させ、構造量子臨界点付近の組成で強結合超伝導を引き起こしていると考えられる。また、Ba1-xSrxAl2O4に対するPDF解析から得られた成果を含めて、現在論文投稿中である。研究項目(a),(b),(c)を順調に達成しつつあることから、研究課題がおおむね順調に進展していると考える。
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