研究課題
量子臨界点の研究はこれまで磁気秩序などスピンのかかわる秩序相を対象として発展し、それに隣接して現れる新奇量子相などが盛んに研究されている。一方、スピンと並びフォノンも固体中の基本的な量子の1つであり、例えばソフトモードが引き起こす2次の構造相転移の抑制によっても、同様に量子臨界点が現れる。しかしながらこの「構造の」量子臨界点は、スピンの系に対してこれまであまり研究が進んで来なかった。本研究では、Ba1-xSrxAl2O4強誘電体を対象物質とし、構造量子臨界点近傍で見られる局所構造変化、それによって発現する格子ダイナミクスや特異な量子物性の解明に取り組んだ。その結果、本系の構造量子臨界点近傍では、過剰比熱や熱伝導率プラトーといった、非晶質固体に典型的な熱物性が見られることがわかった。放射光X線回折・二体分布関数解析・中性子非弾性散乱の結果からは、通常ソフトモードの(コヒーレントな)凍結によって生じる長距離秩序構造が、構造量子臨界点に向かって抑制されること、また構造量子臨界点ではソフトモードがインコヒーレントに凍結した結果、特定の原子サイトにglasslikeなdisorderが生じ、低エネルギーフォノンの増加をもたらしていることが明らかになった。このdisorderが原因となり、構造量子臨界点では中性子非弾性散乱スペクトルが、非晶質固体が示す典型的なスペクトルに変化する。同様の傾向は構造量子臨界性が指摘される(Sr1-xCax)3Rh4Sn13強結合超伝導体でも観測され、さらに、この低エネルギーフォノンの増加が同物質の電子物性に大きく影響していることもわかった。これら2物質はともに音響ソフトモードの凍結に由来する構造量子臨界点を持つことから、glasslikeな低エネルギーフォノンの増加は、音響ソフトモードのかかわる構造量子臨界物質に共通の性質であると考えられる。
令和4年度が最終年度であるため、記入しない。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
JAPANESE JOURNAL OF APPLIED PHYSICS
巻: 61 ページ: SN1017-1, 4
10.35848/1347-4065/ac8047
Physical Review B
巻: 106 ページ: 134111-1, 7
10.1103/PhysRevB.106.134111
Inorganic chemistry
巻: 61 ページ: 9816, 9822
10.1021/acs.inorgchem.2c01358