量子計量とトポロジーの関係という観点からは、量子計量を使って測った運動量空間の体積とトポロジカルなチャーン数との不等式の関係を導き、この不等式が等式となる条件がBloch波動関数が正則関数になるという条件と同値であることを導いた。具体的な模型を通じてこの関係を確かめ、2バンド系では等式が厳密に成り立つことが多いこと、また、多バンド系では模型がランダウ準位に近づくに従い等式に近づいていくということも確認した。この方法を用いれば量子計量というリーマン幾何学的な情報をもとにチャーン数というトポロジカルな性質に関しての情報を得ることができる。 また、この関係を用いて量子計量とトポロジーの間に等式が成り立つようなチャーン絶縁体で、かつ、量子計量やベリー曲率が運動量空間上で一様になるような模型を運動量空間(トーラス)上の正則関数(テータ関数)を用いて具体的に漸近的に構成する方法も提示できた。この構成法で得られる模型は量子計量・ベリー曲率が一様に近いが完全に一様ではない。実は完全に一様になる模型は有限バンドの模型では構成不可能であり、そのことを証明することもできた。 少なくとも一粒子系に関しては量子計量とトポロジーの関係はこれらの研究によりかなり明らかになったと言って良い。多粒子系への拡張の第一歩として自由電子系での多体の量子計量とチャーン数の間の不等式も導いている。多体の量子計量はひねり境界条件の空間で定義されており、相互作用系への自然な拡張も期待できる。
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