研究課題
(1) カイラル・非反転結晶構造への相転移温度が絶対零度に抑制された量子臨界点における超伝導現象の研究を推進した。カイラル構造量子臨界点近傍では超伝導パリティの混成(奇パリティ増強)が理論的に提案されているが、その検証が可能と考えられるLa3(Co1-xRux)4Sn13のxに対する構造相転移温度と超伝導転移温度の詳細を調べた。特に、x < 0.2において、構造相転移温度が低下するものの消失しない中間領域の物質での超伝導の確認に成功した。(2) 量子スピン液体に類似した現象を示すCe3Ir4Sn13の磁気状態を明らかにする成果論文を発表した。この物質は0.6ケルビンで極めて弱い反強磁気秩序相に至るが、ワイス温度は-33ケルビンであり、磁気相互作用は磁気秩序温度よりも遥かに大きいことがわかっていた。すなわち低温での磁気ダイナミクスが重要であり、それを調べた中性子散乱非弾性結果を詳細に解析した。Ce 4f電子の結晶場分裂準位を確定し、基底二重項における磁気ダイナミクスが0.2 meV程度に存在し、そのゆらぎが結晶構造によってもたらされる特徴的な幾何学的フラストレーションと相まってスピン液体の性質をもたらしうることを主張した。(3) さらにカイラル構造のもと反強磁気秩序を示す物質の拡張を狙い、NdおよびEuを含む化合物を合成した。Nd3Ir4Sn13が室温でカイラル構造にあり、1.4ケルビン程度以下で反強磁気秩序を示すことを見出した。先行研究で報告されていたEu3Rh4Sn13における11 Kでの反強磁気秩序相を再検証するとともに、それよりも高温で未知の構造相転移を発見した。さらに、Nd3Rh4Sn13の中性子非弾性散乱を実施して反強磁気秩序相での素励起を観測した結果、明瞭な分散関係が観測された上に、逆空間での周期や散乱強度分布に量子スピン系に類似した特徴を見出した。
2: おおむね順調に進展している
主要な実験手法である大型実験施設での量子ビーム散乱において、日本原子力研究開発機構研究用原子炉JRR-3の再稼働によって中性子散乱実験の機会が得られるようになり、Nd, Eu系物質のカイラル構造と磁気基底状態を調べる研究が推進できた。COVID-19の影響により、依然として国外での実験の機会が得られていないが、それを補う活動が可能となっている。また、放射光を含むX線散乱実験を以前同様に実施でき、La系超伝導体の構造量子臨界現象などを明らかにした。また本科研費の支援により昨年度に導入した新たなX線源による実験装置が順調に稼働しており、さらに検出器の更新テスト等も実施したことにより、COVID-19の影響を少なくすることができている。
カイラル構造量子臨界点での超伝導特性の研究において、これまで調べてきたLa3(Co1-xRux)4Sn13の合成では濃度xを制御しきれなかったが、新たな合成条件を試験することにより改善する。さらにSnサイトへの他元素の置換による超伝導転移温度の上昇を報告した先行研究を踏まえて、その物質の合成と構造量子臨界性の検証を開始して研究を拡張する。量子スピン液体に関する研究では、中性子非弾性散乱によりNd3Rh4Sn13での量子スピンに似た特徴的な磁気ゆらぎが観測されたので、Nd3Co4Sn13, Nd3Ir4Sn13での同様の研究を計画している。Nd3Co4Sn13では結晶構造解析を進めており、その結果を踏まえて中性子非弾性散乱を今後に実施し、磁気秩序相および励起状態を明らかにする。並行してNd3Ir4Sn13の合成と基礎物性測定を進める。Eu3Rh4Sn13においても過去に未報告の構造異常を本研究で見出したので、Co, Irを含む同型物質での同様の現象の検証を行う研究テーマを計画している。本拠地での低温X線回折、KEK PFでの放射光X線散乱、JRR-3およびJ-PARCでの中性子散乱実験の2022年度のマシンタイムをすでに確保してある。
すべて 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
Nature Materials
巻: 21 ページ: 410-415
10.1038/s41563-021-01188-9
J. Phys. Soc. Jpn.
巻: 90 ページ: 124701-1-9
10.7566/JPSJ.90.124701
http://msp.fas.ibaraki.ac.jp/index.html