研究課題/領域番号 |
20H01849
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
太田 幸則 千葉大学, 大学院理学研究院, 教授 (70168954)
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研究分担者 |
柚木 清司 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 主任研究員 (70532141)
杉本 高大 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 助教 (70756072)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 励起子絶縁体 / 励起子凝縮 / プリフォームドペア / 非平衡ダイナミクス / 強相関電子系 / 物性理論 |
研究実績の概要 |
本申請代表者グループの励起子凝縮に関するこれまでの理論研究を背景に、本研究の目的は次の3点を明らかにすることである。すなわち、① 熱的純粋量子状態に基づく変分クラスター近似を用いた強結合励起子凝縮機構の解明 ② 時間発展ランチョス法・時間依存密度行列繰込み群法による励起子相の非平衡ダイナミクスの解明 ③第一原理計算とその解析に基づく低エネルギー有効電子模型の導出。これらにより、超伝導と並ぶフェルミオン対凝縮系としての励起子凝縮の物理の学理を深化させる。この目的を達成するため、研究分担者と協力者を3チームに分け、計画の4年間で強結合励起子絶縁体の特異性を明らかにし、有限温度量子多体系における秩序と揺らぎという歴史的大問題にひとつの解答を与え、さらにはフェルミオン対凝縮系の非平衡ダイナミクスという未踏の問題に糸口を見出す。 令和2年度は、励起子凝縮の学理の深化のための出発点を構築した。新型コロナウィルス感染症の予期せぬ拡大により研究活動が様々な側面で大きく抑制されたため、研究期間の1年間の延長を申請し認められた。その結果、次のような研究実績を得ることができた。研究代表者チームは、非平衡グリーン関数による摂動論的解析手法に加え、強相関電子系に対する非摂動論的な量子クラスター法を中心とする数値計算手法を開発した。また、低エネルギー有効模型の導出を行い、物質に即した理論を構築する基礎を得た。研究分担者チームは、関係する種々の強相関電子模型の非平衡ダイナミクスを研究し、光励起による強相関電子系における非平衡ダイナミクスや光誘起相転移に関する研究手法を発展させた。また、強結合励起子系の有限温度における一般理論を構築するため、熱的純粋量子状態に基づく変分クラスター近似の計算手法を開発した。研究成果は幾つかの学術論文として出版し、国内外の学会等で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウィルス感染症の予期せぬ拡大のため、研究活動が様々な側面において抑制され、また学内業務において発生する様々な困難の解決に従事した結果、研究課題の遂行に十分な時間を割くことができない時期があった。それに加えて、熱的純粋量子状態に基づく変分クラスター近似の計算手法を用いた有限温度での計算手法の適用が予想以上に難しく、その進展が遅れているという状況にあった。これを挽回するため研究期間の延長申請を行い認められた。 この延長の結果、令和3年度は、幾つかの観点から研究の遅れを取り戻すことができた。特にスピン3重項励起子系であるルテニウム酸化物系等で見られる相転移の起源や励起子磁性との関連の研究を著しく進展させることができた。この研究成果は現在学術論文として投稿中である。更に、近年注目されている相関電子系における非平衡ダイナミクスの研究を具体的に推進し、今後の展開の礎を築くことができたことは大きな成功だったと言える。その結果、励起子絶縁体のレーザー光照射による高次高調波発生の起源に関する研究を展開できたことは予想以上の展開だったと言える。 しかしながら、コロナ禍による半導体関連の電子部品納入の著しい遅れのため、数値計算用のワークステーションの整備を十分に行うことができず、その結果、大規模数値計算に関連する研究がかなり遅れてしまったことは残念である。評価区分を「(3) やや遅れている。」としたのは、基本的にはこれが原因である。電子部品の品薄状態も少しづく改善されているようであり、今後早急に計算機環境を改善し、研究の遅れを取り戻したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の研究目的を達成するため、研究分担者チームを増員し、役割分担と相互協力のもと、実験グループとも連携しつつ、下記のような具体的研究課題を同時並行的に実行に移す。これにより、励起子絶縁体に関係する新概念の形成に繋がる多彩な内容を各自究明し、多人数で協力して励起子凝縮の学理の深化を目指す。特に、当該の量子多体問題に対し、非平衡グリーン関数による摂動論的解析手法に加え、強相関電子系に対する非摂動論的な量子クラスター法を中心とする多彩な数値計算手法を開発・応用する。また、現実の物質に対する定量的研究を行うため、理論模型の改良を行い、実験事実との定量的比較を視野に入れた研究を発展させる。 研究代表者チームは、現実の物質を記述する低エネルギー有効模型の導出を中心に研究を展開する。物質に即した模型の構築により、実験結果の定量的理論解析を通して、本研究の核心となる学術的問いに答える。本研究代表者として全チームを統括し、研究全体を取り纏める。得られた成果を学術論文として出版し、広く世界に公表する。また、研究成果の他分野への波及効果等を総合的に評価検討し、今後の方向性を明確化する。 研究分担者チームは、非平衡ダイナミクスを中心に研究を展開する。光励起による強結合励起子系の非平衡ダイナミクスや種々の光誘起相転移の可能性を検討する。イータ・ペアリング状態の実現可能性の追求や、その励起子凝縮系への応用を検討する。関係する院生の研究指導を行い、研究協力者を統括する。もう一人の分担者は、有限温度ダイナミクスを中心に研究を展開する。強結合励起子系の有限温度における一般理論を展開し、BCS-BEC crossoverでの物性変化やpreformed pair相の特性を明らかにする。大学院生の研究指導を分担し、効率的に研究を推進する。
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