研究実績の概要 |
本課題では、現実のスピングラス(SG)物質におけるレプリカ対称性の破れ(RSB)の有無を、スピン配列の重なり分布関数P(q)を観測することで検証することを目的としており、(I)磁気応答測定による間接的な観測(研究代表者:田畑が担当)と、(II)スピン偏極STMによる直接観測(分担者:黒川が担当)を目指している。2022年度((II)に関しては1年繰越)に得た結果は以下の通り。 (I)に関しては、RKKYイジングSG物質Dy(Ru,Co)2Si2及びハイゼンベルグSG物質Au(Mn),Cu(Mn)について、我々が考案した冷却エイジング実験により、温度カオス効果(温度によって安定なスピン配列が完全に変化する現象)の観測を行い、カオス指数ζを実験的に求めた。その結果、RKKYイジングSGでは弱いカオス効果(ζ~0)、ハイゼンベルグSGでは強いカオス効果(ζ~1)が示された。これは前者ではRSBに起因する温度カオスが、後者ではRSBとは異なる起源による温度カオスが生じていることを示唆している。また、Dy(Ru,Co)2Si2については、極めて長時間の磁化緩和測定とその無限時間極限への外挿方法の工夫によって平衡極限のZFC/FC磁化率を求め、両者がSG状態で異なっていることを明瞭に観測した。これはRKKYイジングSGにおいてRSBが起こり非自明なP(q)が生じていることを強く示している。(II) に関しては、2022年度までで1年繰越で整備した低温環境におけるスピン偏極STMの装置を用いて、RKKYイジングSG物質Dy(Ru,Co)2Si2及びその母物質DyRu2Si2のスピン配列の実空間測定を行い、DyRu2Si2では既知の反強磁性(がおそらく表面のため変調を受けた)構造に対応したスピン配列を、Dy(Ru,Co)2Si2ではSG状態に対応したランダムなスピン配列を実際に観測した。
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