研究課題
本研究最大のターゲットであるDyNi3Ga9の圧力誘起らせん磁気秩序とキラルソリトン格子形成の観測に向けて,内径30ミリのX線回折実験用超電導マグネットに挿入可能な小型ダイヤモンドアンビルセルを設計し製作した.また,第一段階の実験として,これまでの技術的蓄積が十分にある圧力セルを用いて無磁場での共鳴X線回折実験を行うため,通常の直径50ミリサイズのダイヤモンドアンビルセルも制作した.その他,検出器も含め,圧力下でのX線磁気散乱観測に向けた周辺環境の整備に努めた.実験を行うSPring-8の理研ビームラインBL19LXUに8Tesla超電導マグネットを移設し,測定の周辺環境の整備を行った.また,常圧での実験を実際に行うことで,圧力下での実験に向けた準備を行った.実験はらせん磁気秩序を示すYbNi3Al9について,磁場をらせん軸であるc軸方向にかけてどのような構造ができるかを,ダイヤモンド移相子によって得られる円偏光を使った共鳴X線回折で観測した.YbNi3Al9はNiをCuで置換した試料でキラル磁気ソリトン格子がらせん軸と垂直方向の磁場で誘起されることが明らかになっている物質である.らせん軸方向に磁場をかけると単純にはコニカル構造になり,ある磁場で強磁性にそろうと考えられるが,YbNi3Al9ではまだ観測がされていなかった.実験の結果,強磁性への転移は40kGという高磁場で起こることが明らかになり,また,磁場によって単純なコニカル構造ではなく,傾きを持ってサイクロイド的な状態も伴ったコニカル構造を形成することが明らかになった.これは本物質系で観測されるキラル磁性の新たな側面であり,重要な発見であるといえる.
2: おおむね順調に進展している
内径30ミリのX線回折実験用超電導マグネットに挿入可能な小型ダイヤモンドアンビルセルの制作が完了,通常の直径50ミリサイズのダイヤモンドアンビルセルも制作が完了,BL19での常圧での予備実験も順調に進み,圧力セルを使った実験に取り組む準備ができたといえる.YbNi3Al9における常圧でのH||cでの実験でも,予想外の結果が得られ,新発見があった.
今年度はいよいよ圧力セルを用いた実験に取り組む.まずは大型の圧力セルを用いて10GPaの圧力を印可し,回折実験を行うことが目標である.そのために,試料の整形,圧力セルへのセッティング,ビームラインでの結晶軸の決定,磁気散乱の観測へ至る各段階でのノウハウを蓄積する必要がある.また,YbNi3Al9で見いだされたH||cでの新たな磁気構造については,偏光解析の奇妙な結果を再測定で確認し,学会や論文での発表を行う.
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件) 学会発表 (4件) 図書 (1件) 備考 (1件)
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https://home.hiroshima-u.ac.jp/tmatsu/Matsumura/Home.html