研究課題
YbNi3Ga9における圧力誘起らせん磁気秩序とキラルソリトン格子形成の観測に向けて,昨年度製作したダイヤモンドアンビルセル(DAC)を使って透過配置での共鳴X線回折実験を行うため,単結晶試料を厚さ15μm程度,幅(1辺の長さ)60~70μm程度の平板状に整形する手法開発を行った.試行錯誤の結果,通常の研磨治具を使って手で丁寧に研磨する方法で厚さ15μm程度を実現できた.この試料をDACに充填し,SPring-8のガス圧封入設備を使ってヘリウムガスを圧力媒体として封入,1GPaの初期加圧の後,磁気相に入る10GPa超の加圧に成功した.実際に放射光ビームラインで加圧状況を確認した結果,極めてシャープなピークが維持されており,しかも十分なピーク強度が保たれていることが確認できた.低温実験に向けて十分に期待の持てる加圧状況が準備できたと言える.大きな軌道モーメントを有するDyNi3Ga9については,多段磁気相転移の詳細なメカニズムを共鳴X線回折で明らかにした.Dzyaloshinskii-Moriya相互作用による格子非整合ならせん磁気秩序と格子整合な強四極子秩序は相矛盾する秩序であるが,これらがどのように競合し,秩序が移り変わるのか,マクロ物性ではよくわからなかったミクロな機構が明らかになった.9 Kで反強磁性秩序を起こす前に12 Kで非磁性の隠れた秩序をもつ正方晶物質CeCoSiについては,四極子秩序の可能性が指摘されていたが,今年度行われた磁場中X線回折実験により,構造の転移を伴うものであることが明らかになった.磁場をかけると構造転移と未解明の転移とが分離し,純粋に隠れた秩序相を持つことを指摘した.正方晶Eu系化合物については,中性子回折,共鳴X線回折の実験により,多様ならせん磁気秩序を起こすことを見いだした.
2: おおむね順調に進展している
単結晶試料をDACにセットし,透過配置での共鳴X線回折実験を行うため,厚さ10μm程度まで整形する手法を獲得できたことは,今後の様々な試料での圧力実験に向けての大きな進歩であると言える.YbNi3Ga9の加圧では,結晶モザイク幅の広がりによって強度を失うことなく,ヘリウムガス圧で10 GPaの圧力をかけることに成功し,低温での圧力下共鳴X線回折実験に向けた準備が整った.その他の物質についても順調に観測が進展しており,論文も発表できている.
2022年度は10GPaに加圧されて磁気相にあるはずのYbNi3Ga9について,低温磁場中での共鳴X線回折実験に取り組む.コロナや紛争の影響で液体ヘリウムの調達が困難な状況であるが,本実験の成功を最優先させて研究資金を投入していく予定である.YbNi3Al9については,育成に成功した大型単結晶を使った低エネルギースピン波励起の観測に取り組むため,オーストラリアのANSTO中性子散乱施設に実験課題申請をした.将来的には,スピン波の非相反関係の観測からDM相互作用を決定したいが,まずはスピン波励起の概略構造の把握を目指し,ゼロ磁場での測定を行う.鏡映面を持つが反転心を持たないEuTGe3型については,T=Irについての磁場中実験,T=Rhについての秩序探索と磁気構造の決定を行う.T=Niについては磁場中での実験結果を詳しく解析し,論文発表を行う予定である.
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (11件) 備考 (1件)
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