研究課題
圧力下共鳴X線回折によるYbNi3Ga9のらせん磁気秩序と磁場誘起キラルソリトン格子の観測をねらった実験をSPring-8のBL19LXUで行った.小型ダイヤモンドアンビルセル(DAC)に,透過配置で共鳴X線回折を行うための厚さ15ミクロンの単結晶試料のヘリウムガス圧封入を完了し,10GPaの圧力をかけた状態で,加圧に伴う結晶性の劣化による格子基本反射のブラッグピーク幅の増大も見られない,良好な状況で行った実験であったが,残念ながら目的とする磁気回折ピークを見つけることはできなかった.磁気秩序の形成がまだ弱く,Braggピーク強度が観測に十分なものではなかった可能性がある.ただ,一通りの技術の蓄積ができたことは大きな進展であり,他の物質への展開に期待は持てる.反転心を持たない正方晶化合物EuIrGe3について,円偏光X線を使ったサイクロイド磁気ヘリシティの観測を行い,単一ヘリシティになっており,反対称相互作用があることを見いだした.また,磁場によるドメイン選択が起こり,磁気相図におけるミクロな構造変化との対応関係を明らかにした.EuRhGe3については磁気回折ピーク探索,EuNiGe3については磁場中中間相での磁気構造解明のための実験を行った.YbNi3Al9については,育成に成功した大型単結晶を使った低エネルギースピン波励起の観測にを目的として,オーストラリアのANSTO中性子散乱施設で非弾性中性子散乱実験を行った.転移温度以下で基底状態が分裂することにより,1.2meVの励起ピークが出現することを観測した.分散関係を含め,データを解析中である.
2: おおむね順調に進展している
圧力下共鳴X線回折によるYbNi3Ga9のらせん磁気秩序の観測は不成功に終わったが,実験技術の蓄積があったことは大きな成果であり,今後の展開に期待が持てる.CeCoSiの隠れた秩序相における構造相転移の論文,EuIrGe3のサイクロイド磁気構造の論文,YbNi3Al9の結晶場励起に関する論文と,主要な成果をまとめた論文も出版され,理解が進んでいる.非弾性中性子散乱実験も磁気励起ピークが観測され,着実に進展している.
2023年度はEuNiGe3の磁場中中間相での磁気構造解明を第一目標とし,引き続き,放射光施設での共鳴X線回折実験に取り組む.EuIrGe3におけるc軸磁場中での磁気構造,EuRhGe3の磁気構造探索も行う.YbNi3Al9については,ANSTOでの冷中性子非弾性散乱実験を継続して行っていく.低エネルギー励起の分散関係をより詳細に調べるため,飛行時間法による波数空間全体の励起スペクトル観測を行うための課題申請をしている.また,磁場をc面内にかけて強磁性状態にしたときには通常のスピン波励起が観測されると考えられるので,その観測を目的とした課題申請も行っている.方位の揃った大型単結晶育成も継続して行う.c軸磁場方向でのコニカル磁気構造と原子変位に関する結果は論文にまとめる.
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 1件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (8件) 備考 (1件)
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