量子流体力学とは、超流動ヘリウムや原子気体ボース・アインシュタイン凝縮体(BEC)などの低温の量子凝縮系における流体力学を指す。そして、この系で起こる乱流を量子乱流という。この系では、優れた実験と数値計算の登場により、大きな展開がみられる。本研究では、これまでの実績と現在の活動に基づき、量子乱流に関するテーマを研究する。今年度は以下の成果を得た。(1) 2流体結合モデル:超流動ヘリウムは、非粘性の超流体と粘性を持つ常流体の混合とする2流体モデルにより記述される。超流体は量子渦糸モデルで、常流体はナビエ・ストークス方程式で記述し両者を連立させることで、熱対向流中の振る舞いを調べた。特に、量子乱流の発達に伴い、常流体の速度場も乱れ(ただし乱流には至っていない)その速度場の異方的なゆらぎを確認した。これは近年、フロリダ大学で行われた実験結果に符合する。(2) 大阪市大低温物理学研究室の実験に関連して、居所的な量子乱流(渦タングル)を作り、そこから放出される渦輪の分布を調べた。結果は、実験結果と定性的に符合する。(3) 球対称熱源が作る局所量子乱流(渦タングル)について調べた。特に、固体壁をもつ球状熱源と、点熱源である。いずれの場合も、渦タングルの成長および、熱を切った時の減衰について調べ、バルクとは異なる特徴的挙動を得た。(4)大阪市大低温物理学研究室の超流動ヘリウム中の吸い込み渦の実験に関連した数値計算を行った。実験と符合する、量子渦のバンドル構造が出現することを確認した。
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