量子流体力学とは、超流動ヘリウムや原子気体ボース・アインシュタイン凝縮体(BEC)などの低温の量子凝縮系における流体力学を指す。そして、この系で起こる乱流を量子乱流という。この系では、優れた実験と数値計算の登場により、大きな展開がみられる。本研究では、これまでの実績と現在の活動に基づき、量子乱流に関するテーマを研究する。今年度は以下の成果を得た。(1) 2次元2成分ボース・アインシュタイン凝縮体(BEC)中における量子渦:巨視的波動関数に対するグロス・ピタエフスキー(GP)方程式の数値解析を行った。一方のBEC中に量子渦対を用意するとそれは並進運動を行う。それが対消滅した後、他方のBEC中に量子渦対が現れる。両成分の間でこのような量子渦対の受け渡し(テレポーテーション)が起こることを示した。また、両成分の量子渦が位置的に重なっている時の運度について調べた。(2) 円筒型箱型ポテンシャルに捕獲されたBECに異方的な振動を加えた時、乱流カスケードの進行とともにどのように波数空間の等方性が回復するかを、GP方程式の数値解析により調べた。波数空間の異方性を特徴付ける変数を新たに考案・導入した。この研究は、近年、ケンブリッジ大学のグループが行った実験が動機となっている。(3)超流動ヘリウムにおける局所量子乱流:量子渦糸モデルによる数値解析を行った。局所量子乱流(渦タングル)を作成し、そのフラクタル次元と自己相似性を調べた。(4)格子ボルツマン法を用いた2流体モデル:超流動ヘリウムは、非粘性の超流体と粘性を持つ常流体の混合とする2流体モデルにより記述される。超流体は量子渦糸モデルで、常流体はナビエ・ストークス方程式で記述するのが標準だが、ここでは常流体を格子ボルツマンモデルで記述する新たな定式化を提案した。
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