前年度に引き続き、超流動ヘリウムおよび原子気体BECに関して量子流体力学の研究を行った。 1. 超流動ヘリウム:大阪大学の実験グループとの共同研究により、半導体シリコンナノ粒子による量子渦の可視化に世界で初めて成功した。従来は、固体水素微粒子や励起ヘリウム分子など、限られたトレーサー粒子による可視化しかできなかったが、より多様な(汎用性のある)トレーサー粒子の適用が可能であることを示した。対応した状況の渦のダイナミクスの数値計算を行い、実験との良い一致を得た。また、米国フロリダ州立大学の実験グループとの共同研究により、量子渦の拡散に特徴的な法則があることを見いだした。すなわち、短い時間スケールでは素早く広がる「超拡散」、長い時間スケールでは「常拡散」を観測した。対応した状況の数値計算を行い、実験結果を確認するとともに、二つの異なる挙動を分けるのは平均渦間距離であることを見いだした。 2: 原子気体BEC:前年までの研究を継続し、ボックスポテンシャルに捕獲されたBECの量子乱流の数値計算をグロス・ピタエフスキーモデルにより調べた。今回注目したのは、乱流の等方性の回復である。大スケールで振動によりエネルギーが注入され、それがカスケードにより小スケールに伝播されて乱流が生じる。運動量分布の異方性を特徴付ける物理量を定義し調べると、大スケールでは異方的であったものが、小スケールでは等方的になることがわかった。これは数年前にケンブリッジの実験グループによる観測と符合する。
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