研究課題/領域番号 |
20H01856
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
山瀬 博之 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, 主幹研究員 (10342867)
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研究分担者 |
吉田 鉄平 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (10376600)
櫻井 吉晴 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 放射光利用研究基盤センター, 副センター長 (90205815)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | フェルミ面 / 電子ネマチック液晶 / コンプトン散乱 / 角度分解光電子分光 / 銅酸化物高温超伝導体 |
研究実績の概要 |
銅酸化物高温超伝導体の一つであるLa2-xSrxCuO4に関して、8, 15, 30%ドーピングの試料(x=0.08, 0.15, 0.30)に対する室温でのコンプトン散乱実験結果およびx=0.08でのT=150 Kの結果を論文としてまとめ本年度に出版したが、その過程で電子相関効果と温度効果を分けて解析することの重要性に気づいた。そこで、電子相関効果が弱いと思われるx=0.30で低温のデータを取得した。一方、電子相関効果が強いと考えられるx=0.08において75Kでもコンプトン散乱実験を行った結果、室温、150Kの結果と大きく異なる運動量分布が観測された。これは、電子ネマチック相関以外の相関も低温で発達していることを示唆しており、現在解析中である。
角度分解光電子分光において、光と電子との相互作用に伴う行列要素の効果を低減させることを狙って、円偏光を用いた実験を実施したところ、従来の結果とは異なるフェルミ面の形状が示唆された。その結果は、バルク敏感な軟X線を用いた角度分解光電子分光の結果だけでなく、コンプトン散乱の結果とも整合しているように見えた。従来の結果は、試料の表面に由来している可能性が浮上した。
電荷揺らぎによる電子の自己エネルギーをt-J模型を用いて包括的に調べた。その結果、電子ネマチック揺らぎなどの効果はプラズモンに比べてずっと弱いことが分かった。つまりプラズモンにより大きな繰り込みを受けた電子系の中で電子ネマチック相関が発達しているという描像が適当であることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コンプトン散乱で得られた成果を論文として出版する過程で、電子相関効果と温度効果を分離することが解析上重要になることを新たに見出し、電子相関効果が弱いと考えられる30%ドーピングの試料の温度依存性の実験も進めた点は、当初の計画以上の進展である。さらに、8%ドーピングの試料で新たに75Kで測定を行い、室温と150Kのデータとは定性的に異なる結果が得られた。電子ネマチック相関だけでなく、他の相関も75K近傍で発達しているためと考えられる。しかし、これらの実験データの解析を2021年度中に終えることができなかった。角度分解光電子分光では、真空紫外域の光だけでなく、軟X線や硬X線を併用した研究へと発展させ、バルク由来か表面由来かを直接的に明らかにする指針を得た。これも当初の計画以上の進展である。ただし、そのためのビームタイム申請を行うまでしか本年度は実施できなかった。理論研究は、銅酸化物に関連する研究を3本の論文として出版できたので十分な進捗状況にあるといえる。したがって、本プロジェクト全体を総合的に見れば、概ね順調に進展していると判断出来る。
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今後の研究の推進方策 |
コンプトン散乱に関しては、x=0.08の試料において、電子ネマチック相関に加えて他の相関も発達し、その温度依存性が非常に強い可能性が浮上した。この全容を掴むために、測定時間を要するフェルミ面のマッピングではなく、コンプトンプロファイルを2方位程度で測定し、400Kから10K程度までの温度領域を精査する。
角度分解光電子分光に関して、円偏光を用いた実験結果はバルク敏感な軟X線の結果やコンプトン散乱の結果とも整合しているように見えた。過去のデータは、主に真空紫外域の光で得られていたことから、試料表面の効果を強く反映していた可能性が浮上した。そこで、軟X線や硬X線を併用した研究へと発展させ、バルク由来か表面由来かを直接的に明らかにすることを狙った実験を実施する。
理論研究は、コンプトン散乱実験から得られた知見、つまり電子ネマチック状態において別の相関が降温とともに発達している点に着目して実施する。しかし、電子ネマチック状態は対称性が低下した相であるために、外場に対して線形に応答する新たな項が理論の中に出現し、その取り扱いは非自明であるとともに非自明な効果を生み出す。そこで、波数が電子ネマチックと同じゼロである強磁性の場合も含めて慎重に解析を進め、電子ネマチック状態の中で物理量を計算する理論的枠組みの指針を得る。
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