研究実績の概要 |
5d遷移金属化合物では、スピン軌道相互作用と電子相関の複合効果により、他の電子系では実現できない多彩な量子相の発現が期待される。本研究では、スピンと軌道の自由度が結合することで生じる多極子の秩序状態を、5d電子系を特徴づける基本的な電子相として位置づけ、秩序形成の微視的な機構解明を目指す。具体的にはダブルペロブスカイトの系統的な合成と物性測定を行い、それらの物質の微視的パラメータを比較することで、多極子秩序の決定因子解明を目指している。 2020年度は多極子秩序を示す5d電子系の典型物質としてBa2MgReO6に着目し、この化合物に対してMgサイトへの元素置換による系統的な化学修飾を行った。Mgサイトにイオン半径のより大きなZn, Cd, Caを置換すると、Mgでは歪のない立方晶の結晶構造を、Cd, Caでは正方晶に歪んだ結晶構造を取ることがわかった。一方、磁気基底状態を比較すると、Mg, Zn, Cdでは弱強磁性であるが、Caでは自発磁化を持たない反強磁性となった。Cdの試料ではMgと同様な四極子秩序転移とみられる異常が比熱と線熱膨張で観測され、同じ基底状態をもつことも明らかにした。これらの物質を比較すると、多極子の基底状態は、遷移金属元素の局所的な歪よりもむしろ遷移金属間距離などで変化する磁気的・静電的相互作用の競合によって決定されていると考えられる。また、放射光を使ったBa2MgReO6に対する精密な構造解析の結果、理論的に提案されていた四極子秩序と整合する四極子秩序パターンが観測された。
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