研究課題/領域番号 |
20H01858
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
平井 大悟郎 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (80734780)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 多極子秩序 / スピン軌道相互作用 / 5d電子系 / ダブルペロブスカイト / 四極子秩序 / レニウム化合物 / 放射光X線 / 電子相関 |
研究実績の概要 |
5d遷移金属化合物では、スピン軌道相互作用と電子相関の複合効果により、他の電子系では実現できない多彩な量子相の発現が期待されます。本研究では、スピンと軌道の自由度が結合することで生じる多極子の秩序状態を、5d電子系を特徴づける基本的な電子相として位置づけ、秩序形成の微視的な機構解明を目指しています。 申請者らが四極子秩序を示すことを発見したBa2MgReO6は、四極子秩序と磁気秩序を形成するときに、結晶の向きとスピンの方向がバラバラになった状態となりますが、これらが揃っていないと本質的な物性を明らかにできません。そこで、2022年度に磁場による構造やスピンの整列に取り組みました。放射光を使い、Ba2MgReO6に磁場を印加しながら構造の変化を調べたところ、通常、磁場によってそろえられるスピンの方向だけでなく、結晶の向きも80%以上そろえることができました。これはスピンと軌道が結合した5d電子の特徴だと考えられます。また、共鳴X線散乱という手法によって磁場中での磁気秩序状態の変化を測定した結果、磁場が強くなるにつれ磁気秩序相が安定になり、磁気転移温度が上昇することが分かりました。今後理論との対応を検討することで、磁場中でどのような多極子状態が実現しているかが明らかになると期待されます。 また、2021年度に巨大な磁気抵抗効果や量子振動を観測し、新しいタイプのトポロジカル物質であることが明らかになったReO2の低温で磁化率が上昇する振る舞いの起源解明のために磁気トルク測定を行いました。この結果、絶対0度に向けて四極子揺らぎが増加していることが明らかになりました。金属化合物でも強いスピン軌道相互作用によって多極子物性が発現することを示す結果といえます。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
5d遷移金属化合物では、スピン軌道相互作用と電子相関の複合効果により、他の電子系では実現できない多彩な量子相の発現が期待されます。本研究では、スピンと軌道の自由度が結合することで生じる多極子の秩序状態を、5d電子系を特徴づける基本的な電子相として位置づけ、秩序形成の微視的な機構解明を目指しています。 2022年度は、四極子秩序を示すことを発見したBa2MgReO6に対する磁場効果を検証するとともに、異方性などの情報を引き出すために必要な、結晶方位とスピン方向がすべてそろったシングルドメイン状態の実現を目指していました。磁場を印加しながらの放射光回折実験により、磁場中での四極子秩序および磁気秩序の変化が明らかとなり、磁場により磁気秩序相がより安定化されることが分かりました。さらにスピンの向きだけでなく結晶の方位も80%までそろえることができ、さらに強い磁場の印加によってシングルドメイン化を達成することが出来るという目途が立ちました。 また、2021年度に新しいタイプのトポロジカル物質であることを発見したReO2に対する磁気トルク測定の結果、低温で磁化率が上昇する振る舞いが四極子揺らぎの発達に由来することを明らかにしました。当初の対象であるモット絶縁体だけでなく、金属でも多極子物性の発現を観測しており、5d電子系を特徴づける基本的な電子相として多極子の秩序状態を位置づける本研究の仮説の妥当性が明らかになりつつあります。このように、当初の計画通りに順調に研究が進められています。
|
今後の研究の推進方策 |
2022年度の研究では、申請者らの研究により低温で四極子秩序を示すことが明らかになったBa2MgReO6に対する磁場効果を検証しました。低温の磁気秩序相で磁場を印加すると、通常は磁場では制御できない構造ドメインが整列することを見出しました。この現象はスピンと軌道が強く結合したBa2MgReO6に特徴的なものであると考えられます。さらに四極子秩序相で磁場を印加すると磁気秩序が誘起されることを明らかにしました。 磁場により構造とスピンの揃ったシングルドメイン状態が実現できるようになったので、これまでドメインが整列していなかったため実現できていなかった中性子回折実験による磁気構造の決定とスピンモーメントサイズの決定に取り組みます。また、共鳴X線散乱実験によって、異なる吸収端での磁気反射強度を比較し、この物質における微視的なスピンと軌道の結合状態の理解を目指します。 2022年度に行った物質合成の結果、Ba2MgReO6とは異なる基底状態をとるBa2CaReO6やBa2YReO6の単結晶試料の育成に成功し、詳細な物性測定を行った結果、粉末試料と単結晶試料では物性が異なることが明らかになりました。今後は、単結晶に対して詳細な構造解析を行い、粉末試料との化学的、構造的違いを明らかにします。そのうえで非弾性共鳴X線散乱実験や物性測定により電子状態および基底状態を明らかにし、構造や電子数が多極子秩序に与える影響の解明に取り組みます。 これまでの研究により、絶縁体だけでなくReO2のような金属でも多極子物性が現れることが明らかになってきました。金属絶縁体転移近傍にあり、電子相関の効果が表れやすいパイロクロア化合物などを対象として、金属における多極子物性の探索も進めていきます。
|