研究実績の概要 |
本研究は強磁場量子極限下のトポロジカル半金属における新しい熱電現象を調べるものである。当初の目標は、(1)理論的に予測されていた2次元Dirac電子系のν=0量子Hall状態が示す「量子熱電Hall効果」を、層状有機導体α-(BEDT-TTF)2I3の圧力下量子Hall強磁性状態を用いて実証すること、(2)3次元トポロジカル半金属における量子極限下の量子熱電Hall効果的由来の「非飽和熱電能」をグラファイト等を用いて調べることであった。 初年度は、まず有機導体α-(BEDT-TTF)2I3の圧力下Dirac電子相における量子熱電Hall効果の検討を行った。熱電係数αxyの量子化を調べる前に熱電能Sxx磁場依存性を調べたところ、非飽和増大の代わりに「こぶ状」構造が確認された。 この実験の準備として圧力下電子状態を層間磁気抵抗の温度依存性から系統的に調べた過程で、Dirac電子系が現れる臨界圧力直下の「弱い電荷秩序状態」がギャップが開いたDirac電子系であることを確認し論文発表した[K.Yoshimura et al., J.Phys.Soc.Jpn. 90, 033701 (2021)]。 そこで有機導体初のトポロジカル輸送現象の探索を新たに研究目標に加えた。この弱い電荷秩序状態では、有限のBerry曲率双極子により「非線形異常Hall効果」が期待される。理論的予測と定量的評価を論文にまとめた[T.Osada et al., J.Phys.Soc.Jpn. 89, 103701(2020)]。 この予測の実証実験のために研究費を繰り越した。実験の結果、ゼロ磁場下で非線形異常Hall効果の観測に成功した。電流のBerry曲率双極子に対する向きに依存した異方性も確認し、論文に投稿した(圧力依存性の追加実験を加えて2021年度に出版された)。
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