研究課題/領域番号 |
20H01865
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
前川 禎通 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 上級研究員 (60005973)
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研究分担者 |
中堂 博之 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, 研究主幹 (30455282)
大谷 義近 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, チームリーダー (60245610)
Puebla Jorge 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 研究員 (60753647)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 表面弾性波 / 磁気音響効果 / スピン波 / 非相反性 / スピンメカトロニクス / スピントロニクス / 磁性薄膜 |
研究実績の概要 |
角運動量保存則を用いて、力学回転の角運動量と物質中の様々な角運動量(スピン)との相互変換機構を明らかにし、「スピンメカトロニクス」分野を構築することが本研究の目的である。1915年にアインシュタイン達は磁性と回転運動の等価性を明らかにした。これは力学回転と電子の持つ角運動量(スピン)が角運動量保存則で繋がっていることを証明するものである。本研究では、物質の巨視的な回転に加えて、様々な力学回転と物質中のミクロな角運動量(スピン)との相互変換による新たな分野「スピンメカトロニクス」の構築を目指した。 表面弾性波は回転運動(角運動量)を持つユニークな音波である。また、スマートフォンなど様々なデバイスに応用されている実用上も重要な固体励起の一つである。本研究では、表面弾性波と磁性薄膜のスピン波との相互作用に注目し、表面弾性波による磁気共鳴現象による非相反性を調べた。音波が一方向にのみ伝搬し、反対方向には伝搬しない現象を非相反性という。表面弾性波の角運動量はその伝搬方向によって角運動量が違う。一方、スピンの歳差運動(回転運動)は磁化の方向で決まっている。そのため、磁化の方向を決めると磁化の歳差運動と共鳴する表面弾性波はその伝搬方向に依存する。この表面弾性波と磁化の相互作用は、当研究代表者が1976年に理論的に提案したものである。この相互作用が、当研究協力者により実験的に検出された。今後、応用的にもその発展が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、物質の巨視的な回転に加えて、様々な力学回転と物質中のミクロな角運動量(スピン)との相互変換による新たな分野「スピンメカトロニクス」の構築を目指した。 表面弾性波は回転運動(角運動量)を持つユニークな音波である。本研究では、表面弾性波と磁性薄膜のスピン波との相互作用に注目し、表面弾性波による磁気共鳴現象による非相反性を調べた。音波が一方向にのみ伝搬し、反対方向には伝搬しない現象を非相反性という。表面弾性波はその伝搬方向によって角運動量が違う。一方、スピンの歳差運動(回転運動)は磁化の方向で決まっている。そのため、磁化の方向を決めると磁化の歳差運動と共鳴する表面弾性波はその伝搬方向に依存する。実験では、FeCoB薄膜で表面弾性波のスピン波共鳴により100%の非相反性を得た。これは応用上も大変魅力的な結果であると言える。また、FeNi強磁性薄膜では表面弾性波の非相反性がNiが80%の領域で符号を変えることを見出した。これはFeNi強磁性の磁歪が組成に敏感であることを示しており、それが表面弾性波共鳴の非相反性を用いて調べられることを示している。FeNiは応用上大変重要な磁性体である。今回の我々の非相反性に関する研究は、磁性研究にも新たな手法を提供している。
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今後の研究の推進方策 |
角運動量保存則を用いて、力学回転の角運動量と物質中の様々な角運動量(スピン)との相互変換機構を明らかにし、「スピンメカトロニクス」分野を構築することが本研究の目的である。角運動量は自然界の様々なところで存在する。台風や水の流れのようなマクロな世界からミクロなQuark物質まで多彩である。最近、Quark-Gluonプラズマを高速回転させてスピン分極した素粒子を取り出す、という実験がブルックヘブン研究所(米国)で成功した。この実験のアイデアは、我々の「スピンメカトロニクス」の研究から得た、ということである。今後は、自然界の様々な渦の角運動量に目を向け、それらと電子スピンとの相互作用を研究したい。また、角運動量が関与する現象には、様々な非相反性も期待さレる。非相反性は角運動量の物理の重要な側面である。我々の研究方向は大きく広がっている。
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