研究課題/領域番号 |
20H01868
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
池田 昌司 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (00731556)
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研究分担者 |
水野 英如 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (00776875)
齊藤 国靖 京都産業大学, 理学部, 准教授 (10775753)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 構造ガラス / 物理ゲル / 粉体 |
研究実績の概要 |
構造ガラス:過冷却液体模型について、エネルギー地形上のサドル配置における振動モードを解析した。局在化した安定振動は弾性と結合し遠方でベキ的に減衰する一方で、局在化した不安定振動は弾性と結合せず、長距離で急速に減衰することを明らかにした。これらは過冷却液体状態における欠陥に相当する。また様々なモデルにおいて、過冷却状態からの緩和挙動を調べたところ、低温に行くにつれ欠陥の濃度が劇的に減少し、それに伴い緩和挙動を支配するベキ指数が変化することを見出した。 サイズの大きく異なる二成分ジャミング系の相挙動を研究した。一成分系と大きく異なり、小さい粒子のジャムした相とジャムしていない相の間に一次相転移が存在すること、高圧では一次転移線が臨界点となることを明らかにした。これは、複数の大きく異なる自由度を持つガラス系のガラス・ガラス相転移とガラス・ガラス臨界点の明確な証拠である。 物理ゲル:レナード・ジョーンズ・ポテンシャルにより相互作用する粒子からなる系に対して分子動力学シミュレーションを実施し、物理ゲルを模擬することに成功した。構造と振動特性に関して次のことを明らかにした。(1)粒子がアモルファス状に詰まった密なクラスターがネットワーク様に繋がっている構造を有する。(2)ゲル特有の低エネルギー励起が存在し、振動状態密度の低周波数域において特徴的なプラトーを形成する。 粉体:粉体などに特徴的な粒子間の散逸力が音波特性に与える影響について研究を行い、研究成果を学術雑誌に掲載した。また、定常せん断下におけるストレスの揺らぎがジャミング転移点において発散することを突き止め、スピン系の平均場理論との類似性を調べる研究を行い、学術雑誌への掲載が決定している。さらに、アバランチ現象に伴う粒子の協同運動を調べる研究を行い、相関長のせん断率依存性などをまとめた論文を投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
構造ガラス:本研究課題の目標は、(1)様々なガラス系における低エネルギー励起の性質を解明し、(2)それに基づいて多彩な動的性質を説明することである。本年度は(1)について、過冷却液体における低エネルギー励起の性質の新規な性質を明らかにした。また(2)について、低エネルギー励起と強く関係する欠陥が誘起する緩和挙動について、数値的に徹底的な検討を行い、緩和挙動と欠陥濃度の間の関係を明らかにした。以上により、本研究は順調に進展していると評価できる。またサイズ比の大きく異なる二成分系に注目し、ガラス・ガラス転移を特徴づけることに成功し、転移における物性の変化を定量化することにも成功した。以上から、研究が順調に進んでいるといえる。 物理ゲル:本研究課題の目標は、(1)ゲルの低エネルギー励起を理解して、(2)低エネルギー励起の理解を基盤にして、ゲルの種々の物性(弾性・塑性特性、輸送特性)を理解することである。現在までに、分子動力学シミュレーションによってゲルをシミュレートすることに成功した。これによって、ゲル特有の低エネルギー励起が存在することまで明らかにした。したがって、(1)の50%まで達成できており、順調に進んでいると言える。 粉体:粉体の研究では、アモルファス系に特有の音速の振る舞いが一変することや、レイリー散乱が粘弾性的なエネルギー散逸に支配されるなど、これまで保存系で確立された音波特性の理解をより一層深める結果が得られた。また、定常せん断下におけるストレスの揺らぎやアバランチに伴う粒子の協同運動に対する理解が深まったことで、粉体など散逸系の低エネルギー励起の解明は着実に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
構造ガラス:昨年度に明らかにした過冷却液体の欠陥に付随する振動モードと緩和過程や塑性過程の動力学を結びつける。そのために、緩和過程や塑性過程における瞬間的な振動モードを調べる。また平衡動力学を振動モードで記述する試みとして、single saddle modelの検討を進める。さらに、昨年度に明らかにした二成分系のガラス・ガラス転移に関して、臨界点近傍での低エネルギー励起を明らかにする。 物理ゲル:まず、ゲルの低エネルギー励起を複数のパラメータによって特徴付けて、詳細に理解する。このとき、ゲルの不均一な構造との関係性に着目しながら理解する。次に、得られた低エネルギー励起の理解を基盤にして、ゲルの輸送特性を理解する。ゲルに音波を励起させたときに、それがゲル中をどのように伝搬していくかを、低エネルギー励起の振動状態から理解することを目指す。 粉体:粉体については「フロッピーモード」を基礎とした振動状態の解析を行う。フロッピーモードは比較的低密度なハイポスタティック状態におけるモードで、エネルギー変化を伴わないのが特徴である。解析ではこれに外場を導入することでエネルギー変化を生み出し、ジャミング系であまり調べられてこなかった系における振動状態を理解する。例えば、硬さの異なる2種粒子の混合系や摩擦を伴う粉体モデルなどを調べる予定である。
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