構造ガラス:構造ガラスの相挙動と力学応答について、二つの大きな成果を得た。(1)ガラス状態のソフトマター固体系について、その線形粘弾性の理論を構築した。これらの系では、損失弾性率に「異常粘性損失」と呼ばれる周波数の1/2乗に比例する応答が現れるが、その微視的なメカニズムは不明であった。本研究では、高密度エマルジョンの微視的模型について、その線形粘弾性の理論を構築し、実験結果を定量的に再現することに成功した。さらに異常粘性損失が、構造ガラスに普遍的に存在するボゾンピークと呼ばれる低エネルギー振動に起因することを見出した。(2)ソフトマターからなる構造ガラスでは、構成粒子のサイズに分散がある場合が多いが、既存の微視的理論はこの点を無視していた。我々は、連続多分散系のレプリカ理論を構築することに成功し、この系が新規な臨界性を示す相を持つことを見出した。 物理ゲル:物理ゲルではフラクタル構造とともに粒子間散逸が重要になる。本年度は散逸が物性に与える影響を調べた。分子動力学シミュレーションによって音波伝搬特性を調べ、散逸がある系はそれが無いガラスとは大きく異なる物性を示すことを明らかにした。特に、ガラスのレイリー散乱則が破れて、周波数の3/2乗に依存する散乱則がもたらされる。また、ガラスの理論に散逸を導入して拡張し、シミュレーション結果を説明することに成功した。 粉体:粉体の特徴である摩擦に注目し、固有振動、音波、レオロジーと拡散に関する研究を行った。まず、粉体系の固有振動の状態密度には接線力(摩擦力)に起因する孤立モードが確認され、摩擦がある場合でも剛性率を定量的に予測することができた。また、粒子の回転自由度に起因する音波モードや音波散乱が摩擦の強さにどの様に依存するかを明らかにした。さらに、摩擦に起因した不連続シェアシックニングと粒子の拡散の関係を解明した。
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