研究課題/領域番号 |
20H01869
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山本 潤 京都大学, 理学研究科, 教授 (10200809)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 動的不均一性 / 揺らぎ / 擬等方性 |
研究実績の概要 |
「準」等方相と総称した物質群は、液体と同じ高い対称性を有しながら特徴的な動的内部構造を持つ物質である。本構想では以下の3つを基礎モデルとする。(1)ガラス・ゲルに代表される物質。(2)2つの特異なフラストレート液晶。(3)Phantasmagoric液晶。すなわちこれらの「準」等方相では、「動的不均一性」に由来する高速な物性を有し、「擬臨界性」に基づいた安定で大きな応答性を併せ持つ。また、その準等方性から予備的な材料の配向処理を必要とせず、その取り扱いを容易とする。本構想では、代表者がごく最近開発・試作を進めている「揺らぎ顕微鏡」を主力研究機器として、動的不均一性の構造の直接観察と、さらに外場下での動的構造変化の観測をもとに準等方相の優れた高速・高応答性のメカニズムの理解とその改良を研究する。 中間年にあたる今年度は、揺らぎ顕微鏡の空間・時間解像度の向上を行い、目的を達成しつつある。同時にモデルとなる空間不均一性と、その時間変化の観測を進めている。空間分解能については、すでに当初の目標を満足しており、今後は時間分解能の改良を行いながら、モデル的なソフトマター系、および、高分子や界面活性剤水溶液など、一般のソフトマター物質の動的不均一性の観測、および外場に対する応答を動画として観察することを達成する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、動的不均一性を持つ領域自体の時間変化を「動画」として観測できるように測定系の改良を進めた。動画からは、動的不均一性の空間構造の時間変化、合体・分裂、領域自体の運動、変形、生成、消滅などを観測することができる。膨大な2次元データから動画を再構築するために、高速な演算用PCを導入し、グラフィックカードの機能を利用して高速画像演算を可能とした。この装置を用いて、動的不均一性が時間変化する物質群の観測や、外場印可後の変化を観測するための基礎技術を固めた。一方、光学系の改良により、揺らぎ顕微鏡の空間分解能を1μm程度まで高解像化することにも成功した。 具体的には、 1.まず、光散乱能の大きな液晶分子をモデルとして動的不均一性の観測と動画観測への拡張を進めた。特に、市販の可視光パターン光照射装置(プロジェクター画像を顕微鏡内に落射投影する装置)を用いて、アゾ色素混合液晶試料に短波長光を照射した。この結果、照射部分の弾性変化により、動的不均一性の生成とその時間変化を、揺らぎ顕微鏡の動画として観測することに成功した。 2.次に、一般の低散乱能試料の観測に対応すべく、光吸収の少ない透明な材料を用いて、高出力のレーザー光による観測を進めている。具体的には、アガロースやPEGの水溶液、各種高分子の有機溶媒試料を対象として基礎的な実験を進めている。 3.さらに、特異なI-N2次転移を示すPhantasmagoric液晶では、流動誘起複屈折の強度や動的光散乱の緩和時間が大きな臨界異常性を示す。また、その臨界領域はミセルの表面電荷密度に依存して特異的に広い温度幅に広がる。そこで、1と同様に光誘起異性化が起こる水溶性アゾ色素分子を混合して、光励起による分子集合体形状やサイズの変化に誘導される、巨視的な相構造・粘弾性変化を観測し、その相関を明らかにする試みを進めている。
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今後の研究の推進方策 |
概ね順調に進んでいるが、 1.揺らぎ顕微鏡の空間解像度は十分な精度を確保したが、時間分解能は散乱光の輝度にも依存するので、照明光強度の増強や散乱輝度を増幅する粒子の混合などにより、1桁から2桁の向上を目指す。特にモデルとなる液晶分子系では、UV硬化性の高分子モノマーを添加、UV照射後の重合過程を揺らぎ顕微鏡で観測する。これによりゲル化やエラストマー化過程における、自発的な動的不均一性機構を解析したい。 2.散乱能の低い一般の高分子・界面活性剤試料の観測を進める。例えば、濃度変化により、高分子の絡み合いによる動的構造生成、あるいは温度変化による物理架橋による動的不均一性生成が観測できると考えている。 3.界面活性剤が作る超分子水溶液系では、光誘起による緩和時間が有意に確認できているので、次年度は空間分布観測やパターン照射による実験へ移行する予定である。
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