本研究では、上皮系細胞集団における細胞の局所的な配列秩序に着目し、細胞集団の秩序形成過程と摂動に対する再配列過程における局所的な秩序の維持・喪失ダイナミクスの時空間パターンを細胞スケールの精度で定量的に記述する新たな物理モデルを構築する。多細胞集団が作る局所的な配列秩序を定量することで細胞集団全体の相状態と安定性を記述する新たな枠組みを提案する。臨床医学の課題に直結するヒト角膜内皮細胞を用いて、細胞生物学的な特性を制御したうえで細胞集団の配列秩序と安定性を実験的に検証する。 今年度は細胞集団における秩序形成過程をより精密に測定する実験を行った。高密度状態における細胞の形状を抽出するため、ヒト角膜内皮細胞の細胞質を安定に蛍光染色しながらダイナミクスを追跡できる手法を構築した。細胞増殖の過程をタイムラプス観察し、各細胞の位置と形状を線形計画法に基づいたアルゴリズムから定量的に追跡した。このデータをもとに、細胞の形状および細胞配列の局所的な組織秩序がどのように時間発展するかの解析を行った。 さらに、細胞の重心位置を用いたパーシステントホモロジー解析を行い、高品質な細胞集団では正多角形に近い小さな幾何学形状を特徴的なリング構造として作るのに対し、低品質な細胞集団ではより大きなリング構造が特徴として得られることを見出した。
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