研究課題/領域番号 |
20H01871
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
西森 拓 明治大学, 研究・知財戦略機構(中野), 特任教授 (50237749)
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研究分担者 |
粟津 暁紀 広島大学, 統合生命科学研究科(理), 准教授 (00448234)
白石 允梓 明治大学, 研究・知財戦略機構(中野), 特任准教授 (20632144)
秋野 順治 京都工芸繊維大学, 応用生物学系, 教授 (40414875)
中田 聡 広島大学, 統合生命科学研究科(理), 教授 (50217741)
末松 信彦 明治大学, 総合数理学部, 専任准教授 (80542274)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 社会性昆虫 / 集団行動 / 自己駆動系 / 意思決定 / 数理モデル |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、1.最大数千匹におよぶアリコロニー全体の大域的状況(食料不足など)に応じて個々のアリが適切に役割を分担し,群れ全体の維持と繁栄に必要な機能を生み出す根本機構を,理論と実験の密接な連携によって探求すること、および,2.人工の要素からなる自己駆動粒子系の集団ダイナミクスが,生き物の群れの動的性質や集団機能をどこまで模倣し得るかを探索することである。 ただし、研究初年度(2020年度)および2年目(2021年度)はコロナ禍のため、当初計画したアリのコロニーの採取が進まず、また、計測系部品の生産と輸入が滞り、計測機器の整備は十分に進まず、予算の繰越が2022年度まで及ぶという異常事態が起こった。このような環境下で、以下の事項を遂行した。 1.アリのコロニーにおいて、リーダー無しで、各タスクを担当する個体が決まる「自律分業」が起こっている。その機構を定性的に説明するものとして、反応閾値モデルと呼ばれる数理モデルが広く支持されてきた。また、各タスクを担当する個体集団の中でも、タスクに関する活動度(勤勉度)は一様でない。 初年度から予算繰越のあった3年目にかけて、我々は、反応閾値モデルをオリジナルなモデルから、タスク活動度分布の時間発展方程式の形に書き換えた。これによって、従来、定性的な議論にとどまっていたアリのタスク分業に関する知見、例えばコロニー分割によって発生する各アリの労働量の再編について定量的な議論へのアプローチが可能となった。その一歩として、代表者らが以前に計測で得たデータをモデルに取り込むことに成功し、実験結果と比較した。 2.自己駆動粒子系に関しては、従来は個々の自己駆動粒子が、場の中で駆動し、相互作用によって複雑な動きを呈することが注目されてきたが、ブレード型の自己駆動体を構成し、回転運動およびその自発的反転が一定の条件下で起こることを実験によって明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度(2020年度)および2年目(2021年度)はコロナ禍のため、当初計画したアリのコロニーの採取が進まず、また、計測系部品の生産と輸入が滞り、計測機器の整備は十分に進まなかった。このような環境下で、以下の順で研究を進めた。 1.初年度当初より、代表者が所属大学を変えたことで、まずは実験の計画をたて、計測系の構築整備を図るとともに、アリのコロニーの採取を意図した。ただし、上記の理由でこれらの計画は進まず、代わって、当面は、理論中心で研究を推進することとした。そのため、反応閾値モデルをオリジナルなモデルから、タスク活動度分布の時間発展方程式の形に書き換えることを目指した。並行して、反応閾値モデルでは、すべてのアリがコロニー内で、同等のストレス/刺激を感受するものとしているが、これらを個体間の相互作用を入れたネットワーク型のモデルへの拡張を目指した。 2.2年目までには、上記のタスク活動度分布の時間発展方程式に、代表者ら自身の先行研究で得たデータをモデルに取り込むことに成功した。これによって例えば、特定の困難であった、アリコロニー内の反応閾値分布を推定することが可能となった。また、計測機材に関して可能な範囲内で調達を進めてきた。 3. 3年目には、計測機器の整備が進み、RFIDタグによる自動計測系の構築が進み簡単な実験ができるようになった。またQRコードを使った新たな計測系についても整備を開始した。 4. 物理化学的な駆動力によってのみ動く自己駆動系が、どこまで生き物らしい動きが可能であるかを見極める一連の実験は、2020年度より行われ、反転する回転運動、特定の領域への往復運動、化学反応による内部自由度の変化をともなう運動など、年度を追って、より複雑な運動が実現されつつある。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、主に理論と計算機実験を中心に、アリの複雑な組織を形成と維持のメカニズムを探究してきたが、ここにきて計測系の整備も進展しつつあるため、可能な範囲で行動の自動計測を行う。とくに、コロニー分割やコロニーの撹乱に対するアリの個体としての反応、および集団としての反応を集団の行動データとして自動計測系により取得し、理論モデルの振る舞いと相互に比較することで、アリ集団の可塑的でかつ靭性の強い組織の根幹をなす機構を明らかにする。 自己駆動系においては、2年目より化学反応により内部状態が変化する自己駆動粒子系のダイナミクスの研究が進展しつつある。今後は、化学反応の他、形状の変化など、高次の自由度を含む自己駆動粒子系の個々、および集団のダイナミクスを取り扱う実験や理論解析を進める。
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