研究課題/領域番号 |
20H01872
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
前多 裕介 九州大学, 理学研究院, 准教授 (30557210)
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研究分担者 |
島本 勇太 国立遺伝学研究所, 遺伝メカニズム研究系, 准教授 (80409656)
宮崎 牧人 京都大学, 白眉センター, 特定准教授 (40609236)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アクティブマター / キラリティー / 秩序形成 / 乱流 / バクテリア / 分子モーター |
研究実績の概要 |
自律的に動き,密度の高まりと共に集団となって秩序だった運動を示す物質群をアクティブマターという.本研究の目標は,アクティブマター集団が示す不規則な乱流状態の理解と制御を目指し,渦の幾何学に着目した実験的研究を行う.これまでに遊泳バクテリアが示すアクティブ乱流から規則的な渦運動を抽出する微小流体デバイスを設計し,多数の相互作用する秩序渦が示すパターン形成の解析を行った.PDMSエラストマーで作られた円筒型のマイクロウェルにバクテリアを封入し,上面をミネラルオイルで封じたところ,側面は滑らかでバクテリアの運動方向に偏りを生むことがないにもかかわらず,渦運動の回転方向の対称性が破れたキラルな渦運動(キラル渦)が出現することを発見した.キラル渦の回転方向は,個々のバクテリアのキラルな運動方向と一致しており,集団運動に運動のキラリティーが反映されたものと考えられる.さらに,バクテリア集団を円環状のマイクロチャネルに封じ込めたところ,チャネルの曲率によらない安定な流れが壁面に沿って生み出されることがわかった.このキラル渦が複数相互作用する際には,キラリティーを介した配向相互作用が生じ,より巨大な渦が出現しうることがわかった.以上の成果は,アクティブ乱流における秩序渦の幾何的普遍性とキラリティーの関連を導く重要な結果と考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
自律的に動き,密度の高まりと共に集団となって秩序だった運動を示す物質群をアクティブマターという.本研究の目標は,アクティブマターのなかでも隠れた渦の秩序性を持つアクティブ乱流現象をモデルとして,幾何学的特徴から秩序形成の原理を明らかにすることにある.これまでに遊泳バクテリアが示すアクティブ乱流から規則的な渦運動を抽出する微小流体デバイスを設計し,多数の相互作用する秩序渦が示すパターン形成の解析を行った.PDMSエラストマーで作られた円筒型のマイクロウェルにバクテリアを封入し,上面をミネラルオイルで封じたところ,側面は滑らかでバクテリアの運動方向に偏りを生むことがないにもかかわらず,渦運動の回転方向の対称性が破れたキラルな渦運動(キラル渦)が出現することを発見した.キラル渦の回転方向は,個々のバクテリアのキラルな運動方向と一致しており,集団運動に運動のキラリティーが反映されたものと考えられる.さらに,バクテリア集団を円環状のマイクロチャネルに封じ込めたところ,チャネルの曲率によらない安定な流れが壁面に沿って生み出されることがわかった. さらに単一の渦運動の秩序性にとどまらず,多数の相互作用する秩序渦が示すパターン形成には幾何的ルールが存在することを見出している.同じ回転方向から反対向きの回転方向の渦ペアに転移する際には基本転移点となる幾何的制約があることを実験,数値計算,理論で示した.とくに複数のキラル渦が相互作用すると,基本転移点からのズレがキラリティーを介した配向相互作用の相対的な強さを表すという幾何的ルールに拡張できることを新たに見出した.以上の成果は,アクティブ乱流における秩序渦の幾何的普遍性とキラリティーの関連を導く重要な結果と考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
遊泳バクテリアの集団運動とその渦ペア秩序転移でみられた幾何的ルールは,アクティブマターの詳細によらない配向相互作用の幾何的普遍性を反映している.そのため,遊泳バクテリアのみならず生体分子モーターに駆動される細胞骨格系などの他の集団運動においても同様の幾何的ルールが成立するかを明らかにする.細胞骨格系では配向相互作用に極性がないネマチック相互作用となるが,幾何的ルール自体は遊泳バクテリアの極性相互作用の場合と同一となることを理論的に導いている.これをキネシン分子モーターと微小管の集団運動の系で示すことを計画している.さらに遊泳バクテリアの集団運動においても,フラストレーションのある幾何形状においては幾何的ルールが基準転移点からずれることが実験的に見出されている.そのメカニズムを明らかにするため,非圧縮性Toner-Tuモデルの解析や数値計算を行う.以上の研究をもとに,キラリティーを含む幾何的構造からアクティブマターの基本原理を探求し,さらに非平衡多体系として生命現象をとらえる研究基盤の創出につなげる.
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