研究課題/領域番号 |
20H01876
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
岩下 靖孝 京都産業大学, 理学部, 准教授 (50552494)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | コロイド分散系 / レオロジー / 異方性粒子 / アクティブマター / 絡み合い |
研究実績の概要 |
本研究ではコロイド粒子の絡み合い形状を系統的に設計し、力学的非平衡下において、絡み合い相互作用が粒子分散系の静的・動的空間構造にどう影響するか、それによりどのような力学物性が現れるのかを解明することを目的としている。 1. 試料作成:フォトリソグラフィを用い、これまでに青・緑・橙それぞれの蛍光を発する任意形状微粒子の作成に成功している。この微粒子について、ブロモエタノール水溶液により粒子と溶媒の密度を、ブロモナフタレンと粒子の混合により屈折率を一致させた系を実現した。しかし、何れも粒子の分散状態の安定性には改善の余地が残った。また、屈折率と密度の両方を一致させるには至っていない。 2. ずり流動場下の構造形成:作成したS字状、楕円状といった絡み合い形状を持つ粒子の分散系に顕微レオメータを用いてずり流動場を印加したところ、絡み合い構造が流れ場の方向に成長する様子を観察することができた。S字と楕円の混合系において、S字同士だけでなくS字-楕円-S字の結合も見られた。また、複数の粒子が同時に同箇所に引っかかり、分岐構造が形成される様子も捉えた。このように、流動場中における絡み合い構造の形成過程とその特徴を直接的に観察することに成功した。 3. 能動粒子の構造形成:フォトリソグラフィで作成した粒子に対し、部分的に金属薄膜を形成し、水溶液中で交流電場を印加することにより、能動的に運動する異方形状微粒子系を作成した。まず絡み合い能は無いが大きな形状異方性を持つ粒子を用て実験を行い、形状に依存した非常に特徴的な運動(速さの大きな履歴挙動や自励振動)や相互作用(自己捕捉)を示すことを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. 試料作成:様々な溶媒を試し、密度や屈折率を一致させた当初の想定にはない系を実現できた。しかし分散安定化などの達成には至らなかったため、この部分については当初計画よりやや遅れている。 2. ずり流動場下の構造形成:実際に顕微レオメータを用い、絡み合い構造の形成過程をリアルタイムで観察することができ、その特徴を解明することができた。他方、上述の分散安定性の問題などにより、粘弾性の測定については十分な結果を得られなかった。総じて、この部分については当初計画程度の進捗である。 3. 能動粒子の構造形成:異方的な形状に依存した能動粒子の特徴的な運動を見出すことに成功した。絡み合い形状に関する成果ではないが、形状自体から生じる新規な特徴という観点では当初計画にはない成果である。総じて、順調な進捗であると言える。 以上、全体としては、研究は順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
1. 試料作成:これまでに青・緑・橙それぞれの蛍光を発する任意形状微粒子の作成に成功しており、扱いにあまり難のない溶媒で粒子と溶媒との屈折率あるいは密度を一致させることができた。しかし粒子の分散安定性は不十分であり、屈折率と密度を同時に一致させることはできていないため、界面活性剤や溶媒を工夫することでそれらを改善し、より実験に適した試料を実現することを目指す。 2. ずり流動場下の構造と粘弾性:S字、楕円粒子に加え、他の様々な絡み合い形状の微粒子の構造形成についても、顕微レオメータによるその場高速観察による観察を行う。これにより、粒子の絡み合い能に代表される形状の特徴と、形成される構造の関係を解明することに取り組む。また、1.で改善した試料を用いて粘弾性の測定を行い、構造と力学物性の関係を解明する。 また、これまでの研究において、ずり流動場下で沈殿した粒子が、形状に依存した特有の流動状態や構造形成を示すことを見出した。よって沈殿した粒子の2次元系についても同様の研究を行いたい。 3. 能動粒子の構造形成:絡み合い形状ではない粒子について、興味深い挙動を見出している。そこで絡み合い能を持つ能動運動微粒子を作成し、絡み合い能と非熱的な能動運動の有無が静的・動的な構造に及ぼす影響を調べる。また、能動運動性と流動場の結合により、例えば超流動的とも呼ばれる興味深い力学応答が生じることが知られている。よって絡み合い能動粒子の流動場下における空間構造や集団的運動状態について調べ、それらの粘弾性への影響を解明することを目指す。
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