研究課題/領域番号 |
20H01883
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高橋 宏幸 東北大学, 工学研究科, 助教 (30768982)
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研究分担者 |
飛田 健次 東北大学, 工学研究科, 教授 (50354569)
岡本 敦 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (50396793)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 非接触ダイバータ / 高エネルギー水素イオン / 体積再結合 / 高周波プラズマ / DT-ALPHA |
研究実績の概要 |
今年度の主な研究実績は以下に示す通りである。 (1)DT-ALPHA装置での水素分子活性化再結合プラズマ(水素MARプラズマ)生成を目指し、水素プラズマに対する水素2次ガス導入実験を行った。ガス導入量を緻密に制御しながらプラズマの計測を行ったところ、2次ガス導入領域において体積再結合進展時の典型的な挙動である電子密度のロールオーバーが観測された。DT-ALPHA装置としては初めてMAR過程の進行を示唆する結果を得る事ができた。 (2)Retarding field analyzer(RFA)を用いた磁力線平行方向のイオン温度計測手法の確立に取り組んだ。オフセット電流や空間電荷制限電流の影響を検証し、1-1.5eV程度の軸方向イオン温度を得た。DT-ALPHA装置では初めて磁力線平行方向イオン温度を評価した。加えて、磁力線垂直方向の速度成分を有するイオンがRFAに流入した際に、電流-電圧特性、ひいては平行方向イオン温度の計測にどのような影響を及ぼすのかを検証した。電流-電圧特性の形状に対する垂直方向速度成分の混入の影響は避けられないものの、垂直方向速度成分の影響を受けずに軸方向イオン温度の評価を行う方法を確立する事ができた。 (3)ヘリウム再結合プラズマに対して電子温度および電子密度の磁力線方向計測を行った。連続スペクトルから再結合フロントでの電子温度を評価すると0.5 eV程度であるにも関わらず、再結合フロント下流の電子温度を静電プローブで評価すると1-2 eV程度の値が得られた。体積再結合の進展によって電子エネルギー分布に歪みが生じ、その結果見かけの電子温度が観測されているものと考えられる。非接触ダイバータ中では従来のような流体近似が成立せず、運動論的に扱う必要を示唆する結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題は、(1)ビーム入射実験の標的となる水素再結合プラズマの生成、(2)高強度水素イオンビームの生成と標的プラズマへの入射、および(3)電子やイオン診断手法の確立の3項目を組み合わせて遂行する。 (1)に関しては、本研究では水素分子活性化再結合プラズマの生成を念頭においている。水素プラズマに対する水素2次ガス導入実験を行い、体積再結合進展時の典型的な挙動である電子密度のロールオーバーを観測した。水素MARプラズマの生成に成功した事を示唆する結果である。今後は水素バルマー系列線の強度比を観測し、水素分子活性化再結合プラズマの生成を裏付ける。このように(1)の項目に対しては順調に研究が進展している。 (2)についてはやや遅れが生じている。本研究ではExBフィルタで水素イオンの弁別を行う事で水素ビームの生成を行う。これまでにフィルタによるイオン弁別の可否の検証や漏れ磁場・漏れ電場がビームイオンの軌道にどのような影響を与えるのかを明らかにしている。しかし高圧ケーブルの手配に遅れが生じフィルタの導入はまだ完了していない。次年度はExBフィルタの導入に向けた作業に注力する予定である。 (3)については当初の計画を上回り順調に進んでいる。今年度はRetarding field analyzer (RFA)を用いた磁力線平行方向イオン温度計測の手法を確立させた。また、磁力線に対して垂直方向の速度成分を有するイオンがRFAで計測された場合に磁力線平行方向のイオン温度の評価にどのような影響を及ぼすのかを明らかにした。更に、体積再結合が強く進展する事により電子エネルギー分布に歪みが生じ、その結果再結合フロント下流では見かけの電子温度が観測される事を明らかにした。非接触ダイバータでの電子エネルギー分布としてマックスウェル分布を暗に仮定するのではなく、その発展を解く必要がある事を指摘する結果である。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画に沿って研究を実施するが、水素再結合プラズマの生成と高エネルギー水素イオンビームの生成に特に注力して研究を進める。今年度は水素プラズマに対する水素2次ガス導入実験によって電子密度のロールオーバーが観測された。水素分子活性化再結合プラズマの生成を示唆する結果であるが、それを裏付けるためには水素バルマー系列線の発光強度の変化も計測する必要がある。複数輝線を同時に観測可能な分光器を用いてバルマー系列線の圧力応答を計測し、水素分子活性化再結合の進展を裏付ける。平行して水素イオンビームの生成に向けた研究も進める。今年度の支援によってExBフィルタを導入するために必要な機器の手配が完了した。次年度はExBフィルタの導入を速やかに進める方針である。まずは(a)フィルタ導入前の実験体系でヘリウムイオンビームや水素イオンビームの引き出しを行い、DT-ALPHAに到達するイオンビーム電流値を計測する。その後、(b)DT-ALPHA装置とイオンビーム源との間にExBフィルタを導入し、事前に見積もった電場によりイオン(H+,H2+,H3+,Heなど)の弁別が可能である事を確認する。弁別性能の確認後、(c)DT-ALPHA装置に到達するヘリウムイオンビームと水素(H+)イオンビームの電流を計測し(b)で得た結果との比較を行う。この比較を通して、想定している高エネルギー水素イオンビーム入射実験に必要な強度のイオンビームが得られているかを確認する。水素再結合プラズマの生成が想定通りに進まない場合、水素電離進行プラズマに対して水素イオンビームを入射してその応答を調査する。電子温度や電子密度だけではなく、振動温度や回転温度にもイオンビーム入射の影響が現れると予想される。高エネルギーイオンが水素の電離進行過程へ与える影響を調べるとともに、再結合プラズマへの入射実験に備えたデータを蓄積する。
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